第三百四話 急な呼び出し
「さよちゃん印とか将軍様印とかあったりして」
「山無に探しに行きたいわ」
クラスメートがさよちゃんや将軍様等のどこかで聞いたことがあるような人物について話しています。機転のきく小坊主さんの物語でした。意地悪商人の名前があれなので、その繋がりなのでしょう。
「それはそうとして、一応ホームルームの時間なのだけど、先生は始めるつもりあるのかしら?」
「あの様子を見ると、何をしに来たのか忘れてるとしか想えないわねぇ」
先生は生徒に混ざり信玄桃を食べながらイベントを中継した番組の感想を言い合っています。
「この学校、確か県内有数の進学校よね?」
「その筈よ。まあ、それだけユウリちゃんご魅力的ということよ。本人がここに居ると知られたら、どんな騒ぎになるかしらね」
「考えたくもないわ」
なんて友子と話してしていると、携帯が振動し着信を告げています。確認すると仕事用の携帯でした。
今日は昼からのはずなので、桶川さんとは後ほど顔を合わせる事になります。その前に電話をしてきたとなると緊急事態でしょうか。教室の隅に行き電話に出ます。
「ちょっと仕事の依頼が入ったから来てほしいのだけど、来れるかしら?」
挨拶も抜きできりだす桶川さん。挨拶抜きでいきなり切り出すとは、応じた方が良い急ぎの案件のようです。
学校をサボるなら両親に事前に伝えておいた方が良いのですが、学校より仕事優先のお墨付きは貰っているのでじごほうこくでも問題ないでしょう。
「大丈夫ですよ、電車で行けば良いですか?」
「今迎えに行けないから助かるわ、お願いね」
私のマネージャー的仕事をいつもしてくれている桶川さんですが、一応あの会社の代表取締役なのです。予定にない外出は早々出来ません。
「何だか仕事が入ったみたいだから早退するわ。信玄桃の感想、明日聞かせてね」
「了解、どんな仕事なのか聞かせてね」
友子に断りそのまま教室を出ます。着いてすぐに吊し上げを食らった為、鞄の中身は出しておらずそのままでした。なので支度する手間はありません。
先生含め全員が話に夢中になっていた為、教室を抜け出しても見咎められる事はありませんでした。後で気付かれるかもしれませんが、友子に丸投げします。
学校の最寄り駅から電車を乗り継いで事務所に向かいます。北本遊の入館証で受付を済ませると、ユウリの控室で身支度を整えて社長室に向かいました。




