第三百三話 山無土産
「はい、これお土産ね」
翌朝、教室で友子に山無土産を渡します。差し出しされたお土産を見た友子は、反射的に受け取ろうとした手を止めました。
「確かに山無は桃の産地だし、そのお祭りやっていたのもテレビで見たけど・・・」
友子は私がレポートした番組を見たみたようです。名産の桃を使ったお土産を用意したのですが、何が不服なのでしょうか。
「だからってこれはないんじゃない?」
友子は私の手にあるポテトチップスを指差しました。お土産に現地の名産を使ったお菓子は定番だと思うのですが、友子には思う所があるようです。
「山無らしく桃の味を選んだのよ」
きちんと山無名物の桃を使ったポテトチップスを選んだのです。某大手製菓会社が出している物なのですから、美味しいのではないでしょうか。しかも、期間限定というレア物です。
その声に女子のみならず男子まで反応しこちらに注目しました。山無はクラスメートに注目されている観光地だったようです。
「えっ、北本さんユウリちゃんのイベント見に行ったの?」
「そう言えば、テニスの由紀ちゃんが映っていたな」
「一人でユウリちゃんに会いに行くなんて羨ましい!」
どうやら、山無という観光地ではなくユウリがレポートしていたので羨ましがられているようです。いました。
「こらこら、なにをやっている。早く席につきなさい!」
そこに救いの神、先生が登場しました。吊し上げから逃れられると思い、救いを求めて見つめてしまいます。
「先生、北本さんは一人で山無のイベントに行ってきたそうです!」
「わかった、被告人北本に対する弾劾裁判を開始する」
私の願いは届くことなく、吊し上げする面子が一人増えただけでした。この世には神も仏もいないのでしょうか。
「お代官様、ここはひとつこれで怒りをお納め下さいませ」
神(先生)が頼りにならなきと判明した為、次の手を打つことにします。鞄からクラスメート用に買ってきたお菓子を机に置きました。
「さすがに人数分は無いから、分けて食べて下さいね」
包装紙が破られ箱を取りだし、中の小分けにされた包みがクラスメートに行き渡りました。
「新ェ門印の信玄桃?聞いたことないお菓子ねぇ」
顎の割れた武士の顔がプリントされたパッケージを見て友子が呟きます。中身は信玄餅のようなお菓子で、小さな包みにきな粉の袋と蜜の容器が付いています。
「期間限定で珍しいのは認めるけど・・・」
お菓子に気を取られ、それについて語りだすクラスメート達。友子は追求を諦めた様子でポテトチップスを鞄にしまいました。
「で、冗談はここまでにしてこれが本当のお土産ね。試食して美味しい事は確認済みよ」
山無では有名なメーカーの信玄餅とワインゼリーが入った袋を渡しました。いくら桃味といっても、ポテトチップスをお土産にしたりはしません。




