第三百一話 山無といえばほうとう
演習場を離れ、次に行ったのは富士五湖の一つである本栖湖です。緑の山々を背景とした湖が、心落ち着く風景を描いています。
「ああっ、無くなっちゃってる・・・」
風景を見て少し落胆する由紀。目当てだった何かが無くなっているようですが、何が無いというのでしょうか。
「ここには競艇選手を育成する学校みたいな施設があったのよ。それを見たかったのに!」
「由紀が競艇?珍しいな」
私も由紀も賭け事のやり方は一通り学んではいます。しかし、自分から進んでやろうとはしませんでしたし競艇に興味も示していませんでした。
「競艇選手を主人公にした、猿旋回ってアニメがあったの。その聖地だから見たかったのよ」
理由を聞けば納得です。興味があったのは競艇という競技ではなく、それを題材にしてアニメだったのです。我が妹ながらブレません。
「残念だったわね。そろそろ次に行きましょう」
湧き水の出る忍野八海を見て昼食の時間となりました。せっかく山無に来たのですから、山無名物のほうとうは食べておかないといけません。
専門店に入りメニューを見ます。一口にほうとうと言っても色んなバリエーションがあるようで、どれを食べようか迷ってしまいます。
「どれにしようかな・・・この海鮮ほうとうにするわ」
「私は山菜ほうとうがいいわ」
由紀が海鮮ほうとうで、私が山菜ほうとうに決定しました。海がない山無で海鮮というのは違和感かありますが、口出しはしないでおきます。
「う~ん、フルーツほうとうとチョコフォンデュほうとう。どちらにしようかしら・・・」
お母さんはまた妙なメニューの2択で迷っています。どう考えても地雷メニューのような気がしますが、この料理を頼むお客さんは居るのでしょうか。
「この肉入りほうとうは何の肉ですか?」
「基本は豚となります。裏メニューとして牛・猪・熊・雉・億千万バッファロー・エンシェントタートルの肉があります」
お父さんの問いにスラスラ答える店員さん。一口に肉と言っても、色々な種類があるようです。最後の2つは聞き覚えがえるのですが、一体何処から仕入れて来るのでしょうか。
「熊肉にしてみるかな」
「私はチョコフォンデュほうとうお願いします」
オーダーを聞いた店員さんが奥に引っ込みます。お母様、選んだ以上責任をもって完食して下さいね。
「「「「いただきます」」」」
テーブルに並べられたほうとうが温かい湯気をあげ、美味しそうな臭いで食欲を増大させます。(例外が一品存在致します)
「美味しい!」
「いい仕事してますね~」
「熊肉の歯応えがまた!」
「・・・チョコ」
由紀、あなたはどこの鑑定士さん?そしてお母さん、頼んだメニューは責任をもって完食しましょう。私達は手伝ったりはしませんからね。
それぞれのほうとうを味見したり、雑談しながら和やかに昼食は終わりました。チョコフォンデュほうとうの味?そんな怪しげな物体、この世に存在したかしら。
お腹が膨れたところで帰路につきます。このまま東京を経由して埼玉の自宅に戻る予定になっています。
「もっとあちこち見た~い」
「渋滞に巻き込まれるから帰りが遅くなるぞ。明日は学校だろ」
お父さんの鶴の一声で帰る事が決定しました。そのまま国道を走り東京を目指す予定だったのですが、お母さんが見てはいけない看板を見つけてしまったのです。




