第二百九十九話 学生の本分
スマホを見た京華さんはあからさまに落胆していました。期待を込めて見てみれば、その画面にはお目当ての少女は写っていなかったからです。
厳密に言えば写っているのですが、ユウリではなく遊なのて気付きません。
「いくら朝霞さんと懇意にしてたって・・・」
「この女性、ユウリさんの所属する芸能プロダクションの社長さんよ」
「今までのご無礼、平に、平にご容赦を!この色紙にお願い申し上げます!」
桶川さんの立場を聞かされ、鮮やかに掌を返し土下座しながら色紙を差し出す京華さん。私のファンなので有り難いと思わなければならないのですが、この勢いには少し引いてしまいます。
「そんな事しなくても、もらってくるわよ」
呆れ顔のお母さんが色紙を受け取ります。京華さんはお母さんの手を握り何度も何度もお礼を言っています。
「ご飯の支度出来たわよ」
エンドレスにお礼を繰り返す京華さんをどうしょうかと悩んでいると、伯母さんが呼びに来ました。話しているうちに結構時間がたっていたようです。
伯父さんも交え7人での夕食です。テレビでは特番の番組対抗クイズ大会が放送されていました。私と朝霞さんはもちろん回答者として出ています。ただし、番組名は脳力試験ではなく悪なりです。
「ユウリさんは脳力試験代表で出るべきよね」
「何言ってるのよ、ユウリさんは声優よ。悪なり代表で正しいわ!」
どうでも良い事で議論をかわす妹と従姉妹。私的にはどちらで出てもやることに変わりはないので傍観者に徹します。
大体、私にはどちらかを選ぶ権利もありません。事務所の指示に従うだけなのですから。
「この子若いのに知識凄いわよね、うちの子も見習って欲しいわ」
「全くだ、せめて赤点だけはとらないよう勉強してくれんかなぁ」
伯父さんと伯母さんは揃ってため息をつきました。話の方向が妙な方向に来たと悟った京華さんが必死に話題の転換を試みます。
「そ、そうだ、由紀ちゃんはゲーム上手いのね。かなりやりこんでるの?」
「そうでもないわよ、私なんてまだまだ・・・」
そう言ってチラリと私の方を見る由紀。釣られて同じく私を見る京華さん。何故このタイミングで私の方を見るのでしょうか。
「え?私は殆どゲームやらないわよ」
極稀に由紀の相手をする事はありますが、自分から進んでプレイする事はありません。それに、ここ何年かは由紀ともやっていないのです。
「由紀ちゃんはテニスで有名だから・・・」
「京華、勉強ばかりしろとは言わないけど・・・」
由紀は成績良い方ではありませんが、赤点は回避出来る程度の成績は修めています。しかも、テニスの腕前は全国屈指というオマケ付きなので京華さんの逆風は続きます。
「な、何で私ばかり!そ、そうだ、遊さんはどうなの!」
予想外の展開にテンパった京華さんは、話題に出ていない私をやり玉に挙げてきました。でも、それはとんでもない悪手となるのでした。
「京華ちゃん、それって自滅よ」
「遊は学年一位から外れた事無いものね」
「全教科一位を毎回独占してるからなぁ」
京華さんを憐れむ目で見る我が家族。完全に自滅しています。私は沈黙を守るのみです。下手なことを言えば追い打ちになってしまいますから。




