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三十二話 焦れる親友

 朝が来ました。毎日律儀に昇らなくとも、一日くらいサボっても良いわよと太陽に言い掛かりを付けたい気分です。


 今日は親友の友子に、仕事について話そうと思います。由紀の同類である友子に話したくないという思いはあるのですが、唯一の親友である友子には隠したくないという思いもあるのです。


 友子は私なんかより、同じアニメ好きな由紀の方が話が合います。何で私の親友やっているのでしょう。不思議でなりませんが、それを問おうとは思いません。


 なんて現実逃避している間にも、学校は近付いてきます。まぁ、私が近付いているのですが。

 学校に着き、教室に入ります。自分の席に着くと、友子がやって来ました。


「おはよう。昨日はどうしたの?」


「おはよう。ちょっと、持病のシャクが・・・ゴホゴホ!」


「おとっつぁん!しっかりして!・・・って、なにやらすのよ!」


 大きなハリセンで後頭部を叩かれました。先程まで、ハリセンなど影も形も無かった筈です。


「友子・・・そのハリセン、どこから出したの?」


「えっ、鞄からよ」


 そう言ってハリセンを鞄にしまう友子。どう考えても、ハリセンの長さはカバンの長さを上回ります。


「友子・・・そのハリセン、鞄より大きくない?」


「・・・企業秘密よ」


 友子の家にはネコ型の青いロボットでもいるのでしょうか。或いは、彼女はアイテムボックスのスキルを所持しているとか。


「そんな事は置いといて、昨日はどうしたの?」


 四次元ポ○ットをそんな事呼ばわりされました。かなり重大な事柄だと思うのですが。


「ちょっと用事ができて」


 後で話すつもりですが、他の生徒がいるここでは言えません。

 友子は納得してないみたいだったけど、丁度先生が来たので席に帰っていきました。


 休み時間に来ましたが、後でと言って押し通しました。友子は不満そうでしたが、私が今は話すつもりはないと悟ると渋々承知してくれました。


 そして昼休み。私達はお弁当を持って屋上へ。人のいない隅に座ります。友子は弁当の包みも開けず、早く話せと目で訴えてきます。


「私ね、ちょっとやらなきゃいけない事が出来たから」


「やりたい事が見つかったの?」


 お弁当を食べながら話すと、友子は身を乗り出して食いついてきました。少し考えてから答えます。


「ちょっと違うわね。面白そうとは思うけど」


 アフレコしたり、クイズに出るのは楽しいと思います。だけど、それに付随する着せ替えや取材を考えると「やりたいこと」だと言い切れません。


「何が違うのよ?何をやるつもりなの?」


「今までやってきたのは趣味。でもね、今やっているのは、仕事なのよ。気軽にやってはいけないし、楽しいだけでやれる事じゃないの」


 真剣な私の表情と話し方に、友子は何も言わずに聞いています。具体的に話さない私に、少なからず苛立っているようです。


「・・・だから、軽々に言えないのよ。詳しくは放課後家に来てね。そうしたら詳しく話すわ」


 食べ終わった弁当箱を片付けて立ち上がります。また肩透かしを食らわせた形ですが、そうする理由があると納得してくれたようです。


 そして放課後。私は友子と家に向かって歩いています。


「仕事するってことは、高校は行かないの?」


「行くわよ。学校も、仕事も両立するわ。いつまで保つか分からない、不安定な仕事だし」


 こればかりは人気商売なので、保証などありません。解雇の一月前に言い渡されたりとか、離職票渡されて職業安定所に行ったりとか、芸能界であるのでしょうか。


「・・・一体、どんな仕事よ?」


「そうね・・・とりあえずは公爵令嬢ね。その後侯爵夫人になるけど」


 私はクスクスと笑いながら答えます。友子はと言えば、予想しなかった答えに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしています。


「公爵令嬢?侯爵夫人?なによそれ?」


 路上で詳しく話す訳にもいかないので、のらりくらりとはぐらかします。

 何とか追求をかわし、家に着きました。二階の私の部屋に入り、ドアを閉めます。


「で、仕事って何なのよ?」


 絨毯に直に座ると、間髪入れずに聞いてくる友子。早く答えを聞きたいでしょうけど、その前に話さなければならない事があります。


「それを言う前に、約束して。友子なら大丈夫だと思うけど、他言しないって」


「もちろんよ。遊がそう言うならば、誰にも話さないわ」


 友子の事は信用しているし、普通なら心配などしません。だけど、友子は由紀と同じ人種なのでその信用がぐらついてしまうのです。


「じゃあ言うわよ。私ね、声優になったの」


 簡潔に答えると、直ぐに耳を塞ぎました。


「ふぅん、声優ね。・・・えぇーっ!声優!」


 予想通りの反応でした。耳を塞いでいなければ、直近での大声に鼓膜を痛めたかもしれません。


「由紀ちゃんなら分かるけど、遊が声優?何で?」


 パニックに陥る友子。無理もありません。私にそういった方面に興味が無いのは、友子が良く知っているのです。


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