第二百九十七話 ジャンケンの極意
「お母さん達冒険しすぎよ。それで由紀、あなたは何を食べたの?」
聞いた途端、由紀の目が泳ぎ出しました。両親と同じく、イロモノ料理に手を出したのでしょう。
「えっとね、ピーチ煮込みうどんっていう美味しそうな屋台があって・・・」
皆まで聞く必要はないようです。由紀はやっぱりお父さんとお母さんの子供だと再認識させられました。
「人の事言えないわねぇ、まともな屋台はなかったの?」
家族がリスキーな屋台ばかり選んだのか、元からリスキーな屋台しかなかったのか。そう考えてみたら一般的な屋台を見かけなかったような気がします。
「私はここで食べるのは止めておくわ」
「お姉ちゃんだけずるい!何か一品食べるべきよ!」
「私は堅実な人生を歩むの、普通が一番よ」
人生、平均値で良いのです。好き好んで地雷を踏みに行く必要はありません。
「堅実ねぇ、どの口で言ってるのかしら」
「遊、普通って意味をググった方が良いぞ」
「お姉ちゃんが普通なら、世界中に普通ではない人は居なくなるわね」
「ちょっ、酷くない?」
家族なのに、いえ、家族だから飛び出す容赦ない発言の数々。まるで私が普通ではないかのような言い草です。北本遊の名は両親や由紀のように全国区で有名になっていたりしていません。ごく普通の女子高生です。
「さあ遊、好きな屋台を選びたまえ」
「選り取り見取よ」
どうやら一品は選ばなければならないようです。選ばなければならないならば、取材途中で見たあの屋台にするとしましょう。
「私はあれにするわ」
指差した先にある屋台はチョコピーチの屋台があります。チョコとピーチの組み合わせならぱ大外れという事はないでしょう。
「おじさん、1本頂戴」
「あいよっ、ジャンケンに勝ったら2本、負けとあいこは1本だよ。では最初はグー、じゃんけんポン!」
店主が出したのはパー。対して私はチョキを出していまた。沢山食べたいという訳ではないので負けても構わなかったのですが、ついつい本気を出してしまいました。
「かぁ~、お姉ちゃん強いな。こう見えても俺、勝率9割を誇ってるんだぜ?」
「たまたまよ。2本いただいていくわね」
戦利品を受け取り家族のもとに戻ります。すると由紀が信じられないと目で訴えつて私を凝視しています。
「はい由紀。1本あげるわ」
「お姉ちゃんよく勝てたわね、私は10回やって全敗よ!」
由紀は10本も食べていたようです。まあ、あの巨大パフェを完食する胃袋の持ち主なので、驚く程ではありません。
「勝率50%だったから、勝てたのは運ね」
「えっ?50%?」
ジャンケンの必勝法は、確か由紀に教わったものでした。なのに当の本人が驚いているのは何故なのでしょう。
「出す手を注意して、出す途中で開きかけてたらパーかチョキだって教えてくれたわよね。それを実践したのだけど」
相手の手が開く事が分かっていたから、出る手はパーかチョキ。ならばチョキを出せば負けはない。なので勝率は50%です。




