第二百九十六話 家族を探して
家族との合流をと思ったのですが、この人混みでは見つけ出すのも一苦労です。しかし、そんな時には現代の便利グッズが活躍します。ポーチに手を入れて携帯電話を取り出します。
かける相手は由紀です。家族の履歴の中で一番上にあったからという単純な理由です。
「もしもし」
「こちらス○ーク。潜入に成功、潜伏中」
反射的に通話切ってため息をつきます。間違えて段ボールが好きな情報員さんにかけてしまったようです。
すぐに携帯が鳴りました。着信画面には由紀の文字が表示されています。
「・・・もしもし?」
「どうしてすぐに切っちゃうのよ、お姉ちゃん!」
「私は情報員の妹をもった覚えはないわ」
「妹のお茶目なんだから、のってくれても良いじゃない!」
由紀ちゃん、お姉ちゃんはお仕事終わってお疲れなのです。そこに精神的に疲れるような追い打ちをかけないで欲しいというのは贅沢な要求でしょうか。
「はいはい、消費税が撤廃されたら付き合うわ」
「それって、永遠にないって事よね!」
そんなことはないわよ。いくつもの政党が公約に掲げていたのですから。政治家の皆様に責任感というものがあるのら撤廃されるはずです。
「まあ、そんな一万二千年後の話は置いといて」
「消費税撤廃ってそんなに先になるの?人類残ってる?」
多分大丈夫ですオカエリナサイと暖かく迎えてくれると思います。
「冗談はここまでにして、合流したいのだけど。何処にいるの?」
「え~っと・・・人混みの中」
確たる目印も少ないお祭り会場の中なのです。そうとしか言い様が無いのかもしれませんが、もう少し努力して現在位置を伝えて欲しいのです。
「何か変わった屋台とかない?」
「う~ん、ありふれた屋台しかないよ。桃の姿焼きとか、桃の竜田あげとか」
それは普通なのでしょうか?我が妹ながら常識を持っているのか非常に不安になります。
「それがありふれてるか甚だ疑問だけど・・・あったわ」
結構近くにありました。ならばこの辺にいるはずです。合流出来そうなのは嬉しいのですが、切っ掛けがこの屋台という事に何か言い表せぬ感情が残ります。
「ああ、お姉ちゃん、ここよ!」
「由紀、叫ばないでよ!」
携帯が通話状態のままなのです。咄嗟に携帯から耳を離していなければ鼓膜にダメージを負うところでした。
文句を言いつつも携帯を切ってポシェットにしまい、家族と無事に合流を果たします。
「お父さん、お母さん、何か食べたの?」
「ああ、俺はモモニラ炒めを」
「桃カツ丼というものがあって・・・」
言葉からすると、レバーや豚肉の代わりに桃を使った料理なのでしょうか?料理形態の想像はつきますが、味の想像はつきません。美味しいのでしょうか?
「かなり独創的な料理みたいだけど、お味の方は?」
美味しいのなら私も食べてみようと思ったのですが、両親は放心し遠い目をしています。それを見た私は絶対に買うまいと心に誓ったのでした。




