第二百九十三話 京華さんの暴走
「学校の図書室から借りてきた本なのだから、普通の本のはずよ」
「ねぇ、その学校大丈夫なの?」
「大丈夫・・・とは断言出来ないわ。」
指圧入門の本一冊に大袈裟な、と呆れているとまたもやドタバタと足音が聞こえてきました。
「お母さん、早く桃祭りに行かないと!ユウリさんが待ってるわ!」
いつの間にか居なくなっていた京華さんが、巨大なリュックサックを背負って再登場しました。何だか物騒な金属が顔を出していますが・・・
「随分大荷物ね。何に使うのよ?」
「ユウリさんを撮す撮影機材にユウリさんを守る武器よ。おかしい?」
伯母さんの問いに間髪入れずに答える京華さん。お祭りに武器は必要ないと思うのですが。山無のお祭りには銃器が必須というローカルルールが存在しているのでしょうか。
「バレットM82は威力ありすぎね。こっちにしなさい、小回りきくから」
ずれた指摘をしながら伯母さんは短機関銃 MP40を渡しました。やはり山無のお祭りには銃器が必須なようです。
「そっか。私もまだ修行が足りないわね」
「状況に合わせた火器を選択しなくちゃダメよ」
山無でほ銃刀法は適用されないのかと遠い目をしていると、呆然としていた由紀が突っ込みを入れてくれました。
「お祭りに行くのに機関銃はいらないのでは?」
「何を言ってるるの!ユウリさんをKUKI親衛隊から守るためには必要よ!」
そう言われればそんな人達も存在していました。あの後接触が無かったので、すっかり記憶の奥底に仕舞われて思い出す事がありませんでした。
「噂だとひっそりとユウリさんを付け狙っていて、機会があれば亡き者にしようとしてるらしいわ。こうしている間に危険に晒されているかもしれない!」
その点は大丈夫です。なにせ目の前に当人が居るのですから。言えませんけどね。
「とにかく祭りの会場に行きましょう」
「そうね、車をまわすわ」
とりあえずお祭り会場に行こうという事になり、伯母さんの運転する農場のお客様案内用のマイクロバスでお祭り会場に向かいました。
ちなみに、山無でも銃刀法はきちんと機能しているそうです。なので京華さんの持ち物は完全に違法だとお母さんが教えてくれました。
「大盛況ね」
「田舎だからイベントが少ないのよ。お宝を鑑定する番組が来たときには凄かったわ」
司会が代わってしまったあの番組です。司会変更前はよく見ていました。
「早くユウリさんを探さないと!」
京華さんは荷物を背負って走り出して行きます。リュックからはみ出た銃身を見られたらマズいと思うのですが、その疑問にはお母さんが答えてくれました。
「遊、揉み消すのは簡単だから心配いらないわよ」
「揉み消すのはすでに決定なんですね、お母様・・・」
誰かうちの家族に常識というものを下さい。切実にお願いします。
「ゆっくりしているが、桶川さんが待っているんじゃないのか?」
「そうだったわ。行ってきます!」
お父さんの指摘に駐車場の隅へと走り出します。私だけはこれからお仕事ねので、ゆっくりとしていられないのです。




