第二百九十話 姉妹の再会
目の前に広がるのは、薄桃色のカーテンでした。一面に広がる桃園は美しいピンクで覆われ、甘い匂いを漂わせています。
「ここは桃と葡萄の名産地なのよ。今の季節は桃の花が満開ね」
梅とか桜はよく話題になりますが、桃の花はあまり注目されません。それが勿体無いと思う程素晴らしい景色でした。
甘い香りが漂う桃の世界を車は走ります。遠目から見るピンクの絨毯も綺麗でしたが、近くで見る桃の花も綺麗で目を奪われます。
「梅のよりも薄く、桜よりも濃い。綺麗ねぇ」
「うちの庭に植えたいわ」
この花を家の庭で毎年見れるのは嬉しいと思い提案しました。この地の景色には遠く及ばなくても、毎年鑑賞したいと願ってしまえ美しさがあります。
「じゃあ、帰りに苗木を買って帰ろうか」
「そうね。最低2本は買って帰らないと」
両親も賛成のようで、この旅行の楽しみが一つ増えました。由紀も賛成のようですが、お母さんに一つ疑問を投げかけます。
「お母さん、何で2本以上なの?」
「桃の花は、別品種の花粉を受粉させないと実が成らないのよ。だから二本以上植える必要があるのよ」
既になった実を食べる事まで考えているお母さん。でも、桃って実がなるまでに3年かかると聞いたような気がします。
「小さな木でも実はなるわよ、実の大きさは小さくなるけどね。それでも味は美味しいから来年が楽しみだわ」
鬼が笑いそうな会話をしながらも車は進み、とある農場の駐車場へと入って止まりました。
「さあ、着いたわよ」
かなり広い敷地の半分位が桃色の絨毯に覆われています。残りの半分は葡萄の木のようで、葉が出ていますが花は咲いていません。
「いらっしゃい、待ってたのよ!」
農園の直売所の中から一人の女性が駆け寄ってきました。どことなくお母さんに似ていますが、あの人がお母さんのお姉さんでしょうか。
お母さんの少し手前で立ち止まった女性はゆっくりと右手を差し出しました。それに応じて右手を出すお母さん。一拍の間をおいて握手が交わされました。
「今、変じゃなかったか?」
「握手する手がぶれたような・・・」
首を傾げるお父さんと由紀。2人には今の高度なやり取りが見えていなかったようです。そんな二人を余所に、当人達は何事もなかったかのようにしています。
「結婚しても衰えてないわね」
「そっちこそ。危うく極められるところだったわ」
久しぶりの再会にしては物騒な挨拶を交わすお母さんと伯母さん(推定)。
「一体なんの話だ?」
状況が見えなかったお父さんと由紀に説明をして、現状を把握してもらいましょう。
「女性がお母さんの腕を極めようと手を伸ばした所をお母さんが手をずらしてかわし、逆に極めようとしたのよ。それを一瞬手を戻してかわし、掌のツボを抑えようとしたのを手をずらして握手に持っていってたわね」
お母さんもチートですが、伯母さん(推定)も大概です。これはお母さんのお姉さんで間違いないでしょう。
「あら、全部見えていたのね。将来有望ね」
「2人とも自慢の娘よ」
山無ではこれが標準なのか、この姉妹が特別なのか。誰か知っていたなら教えて欲しいです。




