第二百八十九話 いざ山無
そのまま何事もなく家族旅行に突入!とはいかないのは何故でしょう。
由紀がお父さんに「少し足を延ばして飯田線に乗りたい」と我儘を言い出し却下されました。なんでも、古い漫画の映画版で舞台になったとか。
次に、旅行3日前に桶川さんからお願いをされてしまいました。
「イベントのレポートだけだから、短時間で済むの。お願いっ!」
「休むって言ってありましたよね」
とあるイベントのレポーターが過労で倒れてしまい、代役の手配がつかないそうです。
その番組のプロデューサーさんに懇願され断り辛い状況で、その現場が山無という作られたかのような状況でした。
「向こうも切羽詰まってるみたいで、バーターがとても良い条件なのよ。お願い!」
「・・・仕方ないですね。半日だけですよ」
というわけで桶川産の懇願に負け、家族旅行であるにも拘わらず私はお仕事もする羽目になりました。
「恩に着るわ。当日は私も山無入りしてフォローするから。
えーっと、メル○ャンにキ○ンでしょ・・・」
「・・・実はそれが目的ですか?」
山無にあるワイナリーの名前を挙げる桶川さんをジト目で睨みます。桶川さん、仕事に託けてワインの飲み歩きをしたかっただけではないでしょうか。
そんなトラブルがありつつも、旅行当日の朝を迎えました。天候は雲一つない快晴で、絶好の旅行日寄りです。
「では、出発!」
土曜日の早朝、車に乗り込み山無へと旅立ちます。国道を西進し八王子へ。更に西へと向かうとカーブか続く山道へと突入していくのでした。
「ねえ、高速道路は使わないの?」
「高速道路なんて、渋滞したらアウトだからな。迂回出来る下道が一番だよ。寄り道も出来るしな」
どうやらお父さんは高速道路が嫌いなようです。確かに首都高みたいな万年渋滞道路は低速道路と呼ぶ方がしっくりきます。
新緑の緑の中を車は走ります。早くに出てきた甲斐もあって、渋滞する気配はなく快適なドライブを堪能出来ました。
「コンビニ寄るぞ」
「待ってました!」
朝食の確保とお手洗いのためにコンビニへ寄ります。山の中では中々コンビニが無いので、見つけた時に寄らなくては次にいつ寄れるかわかりません。
「スリー○フとは・・・セブン○レブンもファ○リーマートもロー○ンも見当たらないって・・・」
埼玉では見たことがないコンビニチェーンに、思わずこんな呟きを漏らしてしまいました。
地元では殆んどお目にかかれないレアコンビニに入り目的を達成。お弁当やお茶を車内で食べてから出発します。数時間走り、とうとう山越えを果たします。つづら折りの山道を抜けた先に広がる盆地を見た私達は絶句してしまいました。




