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第三十一話  由紀の疑い

「ただいま、お母さん!」


「お帰りなさい」


 家に帰ると、玄関にお母さんが待ち構えていました。挨拶もそこそこに、有無を言わさず引っ張ります。


「ちょっ、どうしたのよ?」


「お父さんがね、遊を待ってるのよ。その服、よく見せてなかったでしょ?」


 手を引かれてリビングに入るなり、お父さんが抱きついてきた。しかし、お母さんの手が離れたのでバックステップでかわします。


「遊~!可愛いぞ~グフッ!」


「アナタ・・・年頃の娘にいきなり抱きつくとは、どういう了見かしら?」


 鬼の形相で見下ろすお母さん。お父さんは瞬時に脇腹・喉・眉間を突かれて、床に倒れ悶絶しています。


「反省も後悔もしてます・・・スイマセン」


 あの攻撃を繰り出すお母さんは凄いけど、それを受けて意識があるお父さんも凄い。お母さんいわく、江戸末期に労咳で倒れた剣士の三段突きを抜手で再現した技だとか。普通の人なら一撃で気絶ものです。


「分かればよろしい。遊、着替えてきなさい。由紀が帰ってくるわよ」


 それはまずい。まだあの子には知られたくありません。というか、ずっと秘密にしたいけど、そうはいかないのでしょうね。


 私は着替えるために2階に向かいます。階段を上がろうとしたとき、玄関が開いて由紀が帰ってきました。正に間一髪で、お母さんが指摘してくれなかったら危ない所でした。


「ただいまー。あれ?お姉ちゃん帰ったの?」


 由紀は目敏く階段を上がっていた私を見つけ、話しかけてきました。上手く話を終わらせ、着替えに行かなければなりません。


「由紀、お帰りなさい。遊、早く着替えてしまいなさい」


 お母さんがリビングで由紀の気を引いてくれました。私は急いで髪を三つ編みにして結ぶと、服を着替えて眼鏡をかけました。


 由紀はリビングに足止めされているようです。それを気配で確認すると洗面所に行き、顔を洗い化粧を落とします。


「あれ?由紀、帰ってたのね」


「お姉ちゃん、お帰りなさい。今日も出掛けてたんだ」


 由紀が探りを入れるような目で聞いてきました。最近進んで外出しているので、怪しく思っているようです。


「ええ。知り合いとちょっとね」


 情報を与えぬよう、曖昧に答えます。また収録を見てきたなどと言ったら、根掘り葉掘り質問されるのは目に見えています。


「怪しいわね、その人、男の人?」


 肘でつつきながら、「白状しろ」と言いたげな顔で質問してきました。その誤解は心外ですが、核心に迫られるよりはかなりましです。私は由紀を押し退けて、ソファーに座りました。


「女の人よ。今日はお母さん達にも会ってるわよ」


「えっ!女同士!しかも親に挨拶済み!」


 対面のソファーに座った由紀の頭を、特大のハリセンで叩きます。なんという誤解をしてくれるのですか!


「バカな事言わないの!ぶつわよ!」


「ぶつわよって・・・普通、ぶつ前に言わない?」


 涙目で抗議してきましたが、その抗議は却下させていただきます。


「あら、逆刃刀で峰打ちが良かった?」


「逆刃刀で峰打ちじゃ切れるって!頬に傷のあるるろうにじゃあるまいし!」


「私は六角形で闘う偽善クンの方が好き」


 何だかんだいって、由紀のお供で結構アニメ見ているのです。門前のなんとやらで、私も人並み程度にはアニメに詳しくなりました。


「私は蝶々の変態が・・・って、会ったの本当に女の人?」


「本当よ。今日も収録見てきたのよね」


 お母さん、フォローは嬉しいのですがそこでバラしますか。どちらかというと隠したかった事がバレてしまいました。


「いいなあ。私も収録見てみたい!何でお姉ちゃんだけ!」


「仕方ないでしょ?連れていってもらうのに、『妹も一緒に』なんて言えないわよ!」


 まだ文句を言う由紀を尻目に、自室へ戻ります。ユウリの正体は置いておくとしても私の言うことは正論なので、お母さんが嗜めています。


 今日は疲れた。収録よりも着せ替えで疲れました。クイズ番組に出るのは楽しいけど、その都度着せ替え人形になるのは避けたいです。

 でも、避けられないでしょうねぇ。お父さんもお母さんもとても楽しそうでしたし。


 これからを考えて更に精神的な疲労を重ねた私は、すぐに眠りの世界へと落ちたのでした。


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