第二百八十八話 山無に行こう
この世界は平行世界です。一部地名等が違う場合があります。
「こんな時にはこれね。」
机の下から霧吹きとアイロンを取り出す桶川さん。何故芸能プロダクションの社長執務室にこんの物が常備されているのでしょう。
「芸能界では社長の執務机に霧吹きとアイロンを常備するのが常識なのかしら?」
「備えあれば憂いなしよ。徹夜になってヨレヨレになったスーツに掛けたりとか、結構使うわよ」
一応それなりの理由があって装備されているようです。手慣れた手つきで霧吹きを使い、アイロンをあてる桶川さん。
「FAX用紙って、確か感熱紙よね」
「・・・そうだったわね。」
熱に反応して黒い色を発色する、それが感熱紙です。そんな紙に熱を加えるアイロンをかければ真っ黒になるのは、至極当然発生する現象なのです。
「うちにはFAXなんて来なかった。うん、来なかったのよ」
再び丸められゴミ箱へと送られるFAX用紙。日本人伝統の技、「無かった事にする」が発動されました。
「さあ、今日もお仕事頑張るわよ!」
インタビューにトーク番組の収録、CM撮影とスケジュールは押していました。
アフレコが一件もありません。私はタレントじゃなく声優なのに。と言っても今更かしらね。
唯我独尊な勧誘の事務所の事など忘れ、仕事をこなして帰宅しました。
その日の夕食時、突然お父さんから唐突に旅行を提案されました。
「山無に行かないか、お義姉さんにお前たちを紹介していなかったしな」
「そうね、結婚式から顔を出してなかったものね」
この間の話に出た、お母さんのお姉さんです。どんな人なのか、少し興味が湧いていたので会ってみたいとは思います。
「遊、週末お休みになる日はあるのか?」
「えっと・・・再来週は特に収録がないから大丈夫ね。明日桶川さんに仕事入れないように言うわ」
「由紀は再来週で大丈夫かしら?」
「大会も無いから大丈夫。家族旅行なんて初めてね!」
お父さんとお母さんが忙しいので、今まで家族旅なんて行った事はありませんでした。由紀はテニスの大会であちこち行ったり、両親も取材旅行とか行っていたけど家族旅行は無かったのです。
「山無かぁ、早速舞台になってるアニメをチェックして聖地をリスト化しないと!」
そう言って自室へと駆け出す由紀。あの子はどんな時もブレません。私は特にやる事も無いので、いつもの通り台本に目を通して就寝するのでした。
翌朝、友子に家族旅行の話をしました。友子の家も家族旅行はしないらしく、少し羨ましがられました。
「お土産は桔○屋の信玄餅とワインゼリーね!」
素早く携帯で山無を検索すると土産を指定する友子。店名まで指定するとは随分拘っています。
放課後、メールで桶川さんの方も了解取れました。お仕事が入っていないので、そこはスムーズにいきました。初めて会う親戚。一体どんな人なのでしょう。




