第二百八十六話 新年度
「・・・これで、始業式を終了します。本日のアナウンスはフウの担当にてお送りしました」
始業式が終わり、ゾロゾロと教室へと歩きます。校長先生の公私混同は治まらず、イベントごとに司会を外部から雇っています。
まあ、その財源が学校の公費ではなく同人活動の売り上げから拠出されているので文句は言えません。
「今日はフウちゃんか。校長先生、流石のチョイスね」
「誰よ、それ」
感心する友子に質問します。友子が知っているということはアニメ関連の人なのでしょうけれど、聞いた覚えがありません。
「出たばかりの新人声優さんよ」
「まだチョイ役しかないけど、将来有望だよな」
「ユウリさんみたいにプロフィール公開してないのよ」
「同じ事務所だからかな?」
周囲のクラスメートから回答が帰ってきました。どうやら桶川プロ所属の新人声優のようです。
「遊、あなたはもっと声優に興味もたないと。ユウリちゃんの後輩よ?」
「うんうん。声優全般とは言わないけど、ユウリちゃんの関連だけは抑えないとな」
確かに、私は事務所の先輩後輩とのコミニケーションをとっていません。尤も、後輩は今年度入った新人しか居ないのですが。
正体を隠しているので、それがバレないように社内の人とも接触は控えているという事情はあります。
「そんなことより、うちはクラス替えしないのね」
都合が悪いときは話題を変えるに限ります。幸い、そう固執する話題ではなかったようで話は切り替わりました。
「浅く広くではなく、深い親交をっていうのが建前らしいわよ」
建前ということは、別に本音があるという事です。友子はそれも知っているようでした。
「クラス替えの編成を考えるのが面倒っていうのが正解みたいよ」
教師陣、仕事しましょう。どんなに面倒でも、それを行う事でお給料を貰っているのですから。
『クラス替えなんかやったら、新しいクラスメートとか出さなきゃならんだろーが!考える方の身にもなれや!』
・・・はっ、今、聞こえてはならない天の声が聞こえたような気がします。あの声に逆らってはいけないと本能が警告を発しているのです。
「遊、どうしたの?」
「何でもないわ。行きましょう、友子」
少しぼうっとしてたようです。気を取り直し教室に向かいます。
「面子は変わらないが、今日から2年生だ。気を引き締めて綺麗なお姉さんを先生に紹介するように!」
雑音は右から左に聞き流しHRが終了しました。先生が義兄になるような愚挙を好んで行う生徒はこのクラスには一人も居ません。
「遊、帰りにカラオケ行かない?」
「ゴメンね、今日は用事があるから」
里美に誘われましたが、今日も仕事です。そうでなくともカラオケには悪い思い出があるので行く気になりません。
家に帰りユウリにチェンジします。軽く変装して家を出ました。今日は桶川さんのお迎えがないので駅前からタクシーに乗りました。
会社の受け付けを顔パスで通過して社長室のある最上階へエレベーターで上がります。社長室のドアをノックして中に入りました。




