番外編 夫婦の出会い⑯
「むむっ、マゼラン派がいる、だと?」
「ツンデレ幼女は確かにポイントが高い。これは派閥を固めなければ・・・」
ガタッと音をたて立ち上がるこちらの副官。その表情は戦闘中かと思う程に引き締まり、その本気度が容易に窺えた。
「早く信者を取りまとめ、布教に務めなければ!」
「こちら側は任せろ!」
「あっ!こちらも行くぞ!」
「負けてなるものか!」
護衛の兵士を残しテントを飛び出す首脳陣。こちらの指揮官とあちらの副官、あちらの指揮官とこちらの副官が共同戦線を張り推しの多数派工作に動き出した。
「ふっ、最後に笑うのはマゼランちゃんなのにな」
「じきに幼女は至高だと思い知るでしょうよ」
余裕の表情でテントを出る兵士達。彼らは皆ロリコンのようだ。この国、こんな首脳陣と兵士で大丈夫か?と心配してしまう。しかし、大丈夫ではないから内戦になっていたのかと納得させられてしまった。
「で、最後は誰とくっつくの?」
「それを明かしたら楽しみが減るでしょ?」
微笑み、そう返すも内心汗が止まらない。なにせ、読者の反応を見てから最終的にゆーしゃちゃんとゴールするヒロインを決めようと思っていたのだから。
つまり、この時点では誰とくっつくかは作者である俺にもわからない。しかし、そんな事を口にすれば3陣営からの強烈なプレッシャーを受ける事になってしまう。
「ふふっ、そうね。でも、あまり焦らさないでね」
立ち上がりテントを出ると、両軍は3人のヒロインにまおーちゃんの4陣営に別れ争っていた。互いの兵士が入り混じり、推しの萌えポイントを力説している。
「内戦、終わったのかな?激化したのかな?」
「平和にはなったから良いんじゃないか?」
それぞれ好きなヒロインの魅力を語り相手を牽制する兵士達に呆れるが、確かに政治的思想から争うよりは余程マシだと自分を納得させる。
「まったく、皆何を争っているのだか。ゆーしゃちゃんはバーブ・エル・マンデブ王子と結ばれるに決まってまーす」
ため息をつきながら断言するウィロビー。まさか腐っている伏兵がこんな所に潜んでいるとは思わなかった。
「むう、それも有りと言えば有りか」
「いやいやいや、そこで納得しないでもらえないかな?」
俺の小説は全年齢対応の健全なお話しで、断じて腐った方々が喜ぶジャンルの本ではないのだ。
「そんな選択肢もあるということでーす。次の即売会が楽しみでーす」
この本は正式に出版もされていない。売りに出されるまでにはまだ時間がかかるであろう。次の即売会に二次創作は間に合わないと思うが、ウィロビーなら自分で出店させかねないな。
「ところで、俺的には目的を果たしたのだから日本に帰りたいのだが」
なしくずし的に挿し絵を頼むという当初の目的は果たされた。条件だった鎧の実戦試験も不本意ながら果たせてしまった以上、俺がこの国に滞在し続ける意味はなくなっていた。




