番外編 夫婦の出会い⑮
テントに入ると向こうの司令官とおぼしきオッサンと副官らしきオッサン、護衛らしい兵士が2人いた。
「遅い。政府の連中は時間を守る事も出来んのか」
「やる事成す事に文句を言うしかない能なしは黙ってろ」
初っぱなから険悪なムードである。お互い戦っているのだから当然といえば当然か。睨み合う両者を無視して空いている椅子に座る。
「これ以上の戦いは国の力を落とすだけだ。我らの要求を聞くなら停戦しよう」
「主力を壊滅させられた敗軍が威勢良いな。まあ、言うだけなら幼児でも出来るからな」
この連中、話し合うつもりあるのだろうか。まあ、弱味を見せた方が妥協を強いられる。それが交渉なのだから威勢を張るのは当然なのかな。
「で、条件とは何だ?話だけは聞いてやろう」
反乱軍の2人は屈辱に顔を歪める。虎の子と言える戦車部隊を壊滅させられているので、戦闘継続となれば不利だと認識はしているのだろう。
「・・・背に腹は変えられん。この本を知っているか?」
反乱軍の副官が差し出してきた本は見覚えがあった。タイトルは現地語なので読めないが、その表紙絵は隣に座る彼女が書いたもの。すなわち、俺の処女作である「ゆーしゃ君、がんばっ!」だ。
「続きが気になって夜も眠れん。続刊が出来たとの情報は掴んである。それを提供してもらおうか」
俺は思わず椅子からずり落ちた。長く続いた内戦を終わらせる条件が、ラノベの最新刊を提供する事などと誰が予想出来るだろうか。
「ゆーしゃちゃんは戻れるのか、ヒロインとの恋はどうなるのか。考えれば夜も眠れん」
「お主、わかっておるな。特にゆーしゃちゃんのラッキースケベぶりが・・・」
内戦の休戦交渉だというのにラノベの話題で盛り上がる一同。殺伐とした話し合いより平和的だから良いのだが、警戒していたこちらは拍子抜けである。
しかし、平和な時間というのは長くは続かない物である。ふとした一言でその平和は脆くも崩れ去ってしまったのだった。
「まったく、ゆーしゃちゃんとボスポラスちゃんから目が離せませんな」
こちらの司令官が笑顔で言えば、あちらの副官がうんうんと頷く。どうやら二人はボスポラスちゃん推しのようだ。それに対しこちらの副官が抗議の声をあげた。
「はあ?司令官、ヒロインといえばスカゲラックちゃんじゃないですか!」
「その通りだ。あの揺れる胸に天然という完璧さはヒロインという他ない」
相手の司令官もスカゲラックちゃん推しのようで、それに同調するがすぐに否定する声があがる。
「大きければ良いというものではない!」
「司令官、ボスポラスちゃんの魅力がわからないと言うのですか?」
それぞれの司令官が自分の副官と争うという構造が産み出されてしまった。収集の付かない現状に、更に混乱させる第三の勢力が現れる。
「ゆーしゃちゃんとくっつくのは、ドーバーちゃんに決まってるのに・・・」
あちらの護衛兵士の一言が皆に行動を起こさせた。




