第三十話 収録終わって
収録が終わり、司会のお二人と解答者の皆が集まって雑談します。普段テレビで見ている人達と顔を合わせて話すなんて、自分が芸能人になったような気がして変な感じです。
私も成り立てとはいえ声優なので芸能人のカテゴリーに入るのですが、なるつもりが欠片もなかった声優にいきなりなってしまい、実感がないのです。
「ユウリさん、今回も好成績さすがですね。しかも、ただ答えるだけでなく上手くボケて笑いも取れるとは・・・」
「優勝おめでとうございます。丁度勉強してたとこが出ましたから」
「こんな問題が出る高校って、どんな高校だよ!」
優勝した高学歴な俳優さんに返事をすると、即座に突っ込みが返ってきました。自分でボケておいてなんですが、私もそう思います。
「ユウリちゃんお疲れ様。惜しかったね」
「ユウリちゃん、面白かったよ。レギュラー入りしてほしいなぁ」
レギュラーの方達も次々と声をかけてくれます。声優は声をあてるお仕事で、クイズ番組の解答者になるような職種ではないと思うのですが。声優の大先輩が司会をやっているので口にしませんけどね。
「ユウリちゃん、見た目も話し方も真面目なのにボケが上手いよね。そのギャップがまた良いね」
「この子、あれが地なんですよ。初めて会った時なんか・・・」
朝霞さんの評価に、いつの間にか来た桶川さんが初対面の時の様子を暴露してしまいました。
「初対面でそれ?見たかったな」
朝霞さん大爆笑です。他の解答者の人達やテレビ局のスタッフまで笑い転げてます。
「酷いですよね、現代の無関心社会って。女の子が拐われて、助けを求めてるのに無視ですよ?」
「いやいや、その状況では漫才以外の何にも見えないでしょ!」
「私、必死に叫んだんですよ。『あ~れ~!助けて~』って」
朝霞さんの突っ込みに抗議して、あの時のように感情込めて再現をしてみせました。
「「「どこが必死やねん!完璧に棒読みやっ!」」」
そこにいる全員からつっこまれました。一字一句違えず、同じタイミングでの突っ込みに打ち合わせしていたのではないかと勘ぐってしまいそうです。
「てなわけで声優のはずが、桶川社長とコンビ組んで漫才やってます。社長に騙されました!これって労働内容の詐称になりませんか?」
クイズで高い回答率を誇る皆さんなので法律にも詳しかろうと質問しましたが、全員揃って目をそらしました。日本はアイドルが体を張って笑いをとるお国柄。新人声優がコントやる位は当たり前ですか。
「ユウリちゃん、そんな事言うと本当にMー1に登録するわよ?」
「じゃあ、頑張って優勝狙いましょう!」
「じゃあ、コンビ名を決めないと・・・って、本当に出る気かい!」
桶川さんとのコントも面白いし周囲の受けも良いのですが、渋滞を考慮するとそろそろ帰らないとまずい時間です。
「社長、私そろそろ帰らないとまずいので、コントはこの辺で良いですか?」
両親公認とはいえ、あまり遅くなると由紀に不審がられるので遅くなりたくありません。先に帰る失礼を詫び、スタジオを後にしました。
「まぁ、収録はうまくいったし、仕事的には大成功ね。本当にレギュラー狙えるわ!」
収録が上手くいき、他の解答者の皆さんの反応も良かったので桶川さんは上機嫌です。脳力試験のレギュラーを狙っているのでしょう。
県境の川も越え、渋滞する箇所を越えました。家が近くなったので、お母さんに電話します。
「近くに来たわ。由紀はいる?」
今日はユウリの姿で、着替えも無いので由紀に鉢合わせしたらまずいのです。もし由紀が在宅ならば、何か策を弄しなければなりません。
「あら、お帰りなさい。由紀に用事頼むから、入れ違いに入りなさい」
どうやら由紀は帰宅しているようですが、お母さんが外出するよう手を打ってくれるようです。少しすると、由紀が出かけるのが見えました。
「では桶川さん、ありがとうございました」
「お疲れ様。明後日迎えに来るわね」
桶川さんと別れ、家に入ります。由紀にも言えばこんな苦労しなくて済むのですが、あの子の反応を予想するとその気は起きません。
でも、いつかは話さなければなりません。気が、凄く重いです。




