第三話 読み聞かせ
本日三話目です
何気なく入ったデパート。何を見たい訳じゃなく、店を見ながらただ歩きます。
すると、どこからか子供の泣く声が聞こえてきました。声の元を辿って行くと、小さな女の子が本を抱えて泣いていました。しゃがんで、目線を合わせて声をかけます。
「お母さんとはぐれちゃったの?」
女の子は泣きながら頷きました。ハンカチを取り出し、顔を拭いて不安を少しでも減らしたくて頬笑みます。
「そっか。じゃあ、一緒にお母さん探そうね」
小さく頷いた女の子の手を引いて、迷子預かり所に行きます。無言で何も話さないけど、少しは安心してくれたみたいで涙は出なくなっていました。
迷子の預かり所に到着し、係りの人に事情を話して放送してもらいます。
「今お母さん呼んでるから、もう少し待ってね」
安心させようと、屈んで頭を撫でます。すると、おずおずと抱えていた本を差し出してきました。
「・・・これ、読んで?」
女の子が差し出したのは・・・ラノベでしょう。表紙には可愛い幼女と、頭にケモミミを生やした凛凛しい青年が描かれていました。
「これ・・・どうしたの?」
「いつもお母さんに読んでもらってるの」
これはこの子の趣味?お母さんの趣味?今時の子供は、童話ではなくラノベを読ませるのでしょうか?
「・・・じゃあ、そこに座ろっか」
手近なベンチに座って本を開きます。ざっと内容を確認すると、幼女と獣人青年のラブストーリーみたいです。これなら読んでも問題ないかな。
キャラクターごとに声色を変えて、感情を込めてセリフを紡ぎます。趣味探しの一環で演技の勉強をしたのが活きています。
「お母さん!」
「ラビーシャちゃん!」
いきなり現れた女性と抱き合う幼女。多分、この女性がお母さんなのでしょう。
それにしても、女の子の名前ラビーシャちゃんだったのね。漢字でどう書くのかしら。
その後、二人から何度もお礼を言われて本を返して別れました。女の子からあげると何度も言われましたけど、こんな本持ち帰ったら妹が喜ぶだけです。
さて、喉も渇いたしお茶して帰りましょう。手を繋いで歩く親子を見送り、きびすを返し歩き始めるとすぐに背後から声を掛けられた。
「お嬢さん、一緒にお茶でもいかが?」
振り返ると、品の良さげな女性がニコニコしながら立っていました。
「私、そっちの趣味は無いんです」
まだ恋もしたこと無いけど、私はノーマルです・・・多分。
「そんな事言わずに。直ぐに気持ちよくなる・・・って、違うわよ!」
あ、この人ノリ良さそうです。少しだけなら付き合ってあげましょう。キレの良い突っ込みをしてくれそうな気がします。
「表千家なら、師範の免状持ってます」
「師範って、凄いですね!・・・って、そのお茶じゃなくて!」
「ちょっとだけよ~」
「それは加藤茶!」
「少しだけチクッとしますよ~」
「それは注射って、『や』しか合ってないし!もうエエわ!」
手の甲で叩いて〆に入る。何の用だか知らないけど、本当にノリが良いです。本職の漫才師さんだったりして。
「じゃ、そういう事で」
「ちょ~っと待ったぁ!」
そのまま逃げようとしましたが、誤魔化せなかったようで肩を掴まれました。ボケていないで、すぐに逃げるべきだったかしら。
「私、これ以上あなたと漫才する気無いんです」
「そんな事言わずに是非相方に・・・って違う!」
このノリの良さは、どう見ても芸人です。違うと言われても、説得力というものがまるでありません。
「兎に角、一緒に来て!」
「あーれー、助けてー」
えりを掴まれて強制連行されたので、一応助けを求めるけど絵に書いたような棒読みです。その前の漫才のせいもあってか、周りの人は誰も警察に通報してくれませんでした。
これって、一応犯罪、よね?