番外編 夫婦の出会い⑬
「か、書けた・・・」
1巻分に相当する原稿を書き上げ、部屋から出る。デビューもしていないのに缶詰めになるとは予想もしてなかったよ。
兵舎で皆が集まる食堂に向かうが、途中で見る兵士の数がやたらと少ない。戦線が動いて出撃したのかと思ったが、それにしては居る兵士に緊張が見られない。食堂に入ると、そこにいた兵士の注目を浴びた。
「おおっ、出てきた!」
「続き、続きを早く!」
俺を囲み続きを寄越せと英語で口にする兵士達。続きとなると書いている小説しか思い浮かばない。あの原稿を読んだのだろうか?
「あら、続き出来たのね」
「出来たは出来たが、この兵士達もあの原稿読んだのか?」
食堂に入ってきた彼女に聞く。原稿は当然ながら日本語で書いていた。この国の兵士の人達が皆日本語を読めるとは思えない。
「正確にはあの原稿じゃないわ、これよ」
渡されたラノベを見るが、この国の文字で書かれているため俺には読めなかった。英語なら標準的な日本人程度に読む自信はあるが、この国の言語はさっぱり読めない。
「ああ、読めないわね。こっちが英語版、こっちが日本語版よ」
渡された日本語版の表紙をを見ると、そのタイトルは俺がよく知っているタイトルだった。
「これって・・・」
「事後承諾で悪いけど、製本させてもらったわ。米国を通じて出版社にも承諾は得ているから著作権はちゃんとクリアしてるわよ」
たった3日でそんな事出来るのか?米国通じてということはウィロビーこやったのか?と、答えの出ない疑問に頭が一杯になる。
「うちの上司は多方面に色々とコネがありまーす。日本政府をおど・・・交渉する位お茶の子さいさいでーす」
一般人には縁のない権力を使ったようだ。自分の作品をそういうのもなんだが、たかがラノベにそこまでするかと呆れてしまう。
「そんな芸当、よくやれたものだな」
「続きを送る約束で嬉々としてやってくれまーした」
ファンになってくれるのは嬉しいが、そこまでの物かと思ってしまう。嬉しさも少なからずあるが、戸惑いが前面に出てしまった。
「という訳で私はこれを読んで挿し絵を書くから、また続きをお願いね」
原稿を没収され、また部屋での缶詰めを強要された。続きを望まれるのは作者冥利に尽きるし、それが仕事なのだから書くことは吝かではない。
しかし、どこまでここで書かせるつもりなのだろうか。まさか完結するまでとか言わないよな?
「待ってくださーい、その前に読ませてくださーい!」
「ダメよ。早く挿し絵を書いて完全な書籍にしないと!」
「なら間をとって俺が・・・」
「いやいや、俺が先に!」
兵士も入り交じって行われる原稿争奪戦をあとに、また原稿を書くべく部屋へと戻った。突っ込みたい所は多々あるが、今突っ込んでも返事は返って来ないだろう。




