番外編 夫婦の出会い⑫
「ぷうぅ~、暇だぁ~」
頬を膨らませた彼女が不満そうに呟く。戦車軍団を壊滅させたあの日から、戦闘はほぼ無くなってしまった。偵察兵の軽い戦闘が時々あるだけで、部隊が出て来ることは無くなった。虎の子の戦車軍団を潰されて、歩兵では彼女に無双されるだけ。敵は打てる手が無くなったようだ。
「ここまで暇になるとは予想外でーす。持ってきたラノベも読み尽くしまーした。北本さん、ラノベ持ってませんか?」
「所持品は必要最低限って言われたからな。そんな物持ってくる余裕は無かったよ」
がっくりと肩を落とすウィロビー。暇なら仕事しろと言いたい所だが、彼の仕事を具体的に知らないと言うことに今更思い至った。
「この国じゃ新作のラノベも手に入らないしね。挿し絵の仕事も無いし暇だわ」
彼女の発言で俺は大事な事を忘れていた事を思い出した。戦闘に明け暮れていて、絵の依頼をしていなかったのだ。
「そうだよ、俺はあなたにイラストの依頼に来たんですよ。俺の小説にイラストを書いて下さい!」
「え、あなた小説家なの?てっきり傭兵だと思ってたんだけど・・・」
その返事にがっくりと両手両足をついてしまう。そりゃ、こっちに来てから戦闘しかしていなかったのだから、俺の職業が小説家とは思わなかっただろう。
「そりゃあ、ここに来てから戦闘しかしてなかったですけどね。それ言う前に前線に引っ張り出されたんですよ」
抗議の意味を込めて睨むと、彼女は目を逸らして口笛を吹く真似をしだした。どうやら口笛を吹けないらしい。
「・・・過ぎた事は置いといて、どんな内容の話かしら?」
「原稿持ってきます。待ってて下さい」
唯一の私物である鞄に走り原稿の束を取り出す。彼女にこれを見せてイラストの依頼をするという簡単な筈のお仕事にどれだけの時間が掛かった事やら。
「これです。読んでみて下さい」
「ふんふん、うん・・・」
パラパラと原稿を捲る。熱中して読んでくれてるから、脈はあると思いたい。最後の一枚を読み終えた彼女が顔を上げた。
「どうでしょう、この話に挿し絵を書いて貰えませんか?」
期待をこめて聞く。しかし、彼女からの言葉はイエスでもノーでもない予想外の言葉であった。
「・・・続き」
「はい?」
思わず聞き返すと、ガシッと擬音を付けたくなる勢いで肩を掴まれた。これは下手に反抗しない方が良いと俺の機器察知能力が警鐘を鳴らしている。
「続きはないの、続きは!」
「か、考えて、ますけど、ま、まだ、活字には、して、ないです!」
肩を掴まれガクガクと揺さぶられているので返事が途切れる。このままでは酔いそうだ。
「挿し絵でも何でも書くから、早く続きを頂戴!」
「はいいっ!」
こうして俺は原稿を書く為に3日間缶詰めにされた。俺は何をやっているのだろう。いや、これは本業と言えば本業ではあるけどね。




