番外編 夫婦の出会い⑪
チャリオット部隊が迫る。戦車砲による砲撃は、味方を巻き込む事を恐れてか止んでいた。
「さて、どうにかなってくれよ・・・」
チャリオットはタンクと違い飛び道具がない。しかし、歩兵に対しては体当たりだけで撃破出来るのだから脅威という点では変わらない。
近くまで疾走してくる戦車に対し盾を構える。こうして裏に付けられたボタンを押せば大丈夫だと彼女が言っていた。
何故これらを託された俺よりも彼女の方が詳しいのか謎だが、その追求は後回しにしてボタンを押す。機械音と共に盾から弾丸が発射され、馬に命中していった。
「ああ、ギ○ンの盾にはそんなギミックがあったなぁ」
日本では銃刀法違反になるから、こっちに来てから誰かが付けたのだろう。どうせウィロビーかケソンだろうと推測。助かったし誰でも良いがな。
迫り来る戦車を潰しタンク部隊の方を見る。外見では損傷を負った車両は見当たらないが、戦車兵がわらわらと車内から逃げ出している車両が散見された。
彼女が戦車に取り付き、すぐに離れる。すると戦車兵がハッチを開けて逃げ出していく。一体彼女は何をしているのだろうか。
「お待たせ、終わったわよ」
「どうやって戦車を無効化したんだ?」
問われた彼女は、懐からソフトボール大のカプセルを取り出した。どうやらこれを戦車の換気ダクトに投げ入れたらしい。
「これを投げ入れたのよ。中身は唐辛子と粉わさびのブレンドよ」
カプセルはフィルターで止められても、中身は戦車内に充満したのだろう。鍛えられた兵士であろうとも、狭い車内で唐辛子と粉わさびが舞い散ったら逃げ出すだろう。
「ちなみに、あちらの戦車にはこれを使ったわ」
戦車兵が喉を押さえてのたうち回ってる。唐辛子ではああはならない。一体何を投げ入れたのやら。
「これの蓋を開けてベンチレーターから放り込んだだけよ」
マニキュアの瓶程の小さな瓶を見せられた。こな小さな瓶であの惨状を引き起こす物質・・・ちょっと考えつかない。
「まさか、毒とか?」
「そんな訳ないでしょ。ごく普通の一般人に毒薬なんて手に入れられないわ。食材の汁が入ってるのよ・・・シュールストレミングの汁がね」
納得だぁー!そんな物を投げ込まれたら、誰だって逃げ出すわ!
「対NBC戦用装備がない古い戦車ばかりで助かったわ」
兵器で敗れるならまだしも、食料品にやられた相手の戦車軍団に同情してしまう。石鹸水塗った石板に乗せて動けなくした例はあるけれど、これは不憫すぎる。
「これは再使用出来ないでーす、残念でーす」
被害戦車を調べたウィロビーは落胆して呟いた。あの臭い戦車に乗ろうという兵は居ないだろう。




