番外編 夫婦の出会い⑩
「来たぞー!」
「は、速いっ!」
「やはり赤いと3倍速かっ!」
「誰か白い悪魔連れてこい!」
敵軍は阿鼻叫喚の渦の中。なんせメインの武器はAK自動小銃で、俺の鎧には弾かれる。チャイナ服の彼女は敵の真っ只中にいるから、撃てば同士討ち。
何度かそれを覚悟で撃ってきた奴もいたけど、彼女は巧みに敵兵を盾に凌いでしまう。
「ふはははは、紅碧の破壊神よ、快進撃もそこまでだ!」
いきなりの声に振り向くと、太ったオッサンが六輪装甲車の上で拡声器片手にふんぞり返っていた。
「我が長年かけて集めた戦車軍団の実力、今こそ見せてくれるわ!」
敵歩兵は撤退し、彼女が隣に来る。いけら玉鋼を人間国宝が鍛えて作った鎧といえども、戦車砲を防げるとは思えない。ここは撤退するべきだろう。
「とうとう戦車のお出ましね。車種によっては厄介だわ」
「いやいや、車種に限らず厄介でしょう!」
素手で戦車に対抗するなんて、小説や漫画の中だけだ。事前に罠を張れれば撃破するコトは可能かもしれないが、そんな準備もしていなければ時間もない。
「戦車隊、前へ!」
キャタピラ音を響かせ、敵の戦車隊が前進してきた。長年かけてと言うだけあって、その年式や車種、メーカーや生産国は見事にまちまちだった。
「よくもまあかき集めて来たわねぇ」
「いや、確かに戦車だけどさぁ・・・」
押し寄せる戦車は、正に寄せ集め。アメリカのM3戦車やM4戦車。ドイツの3号戦車や4号戦車。イタリアのP40や日本の5号戦車。この辺りはまだわかる。
理解に苦しむのは、2頭だての馬が引く篭のような物に2人の人が乗っているもの。1人が手綱を握り、1人が剣と盾を持っている。
「確かに『戦車』だけど、『タンク』じゃなく『チャリオット』だろ、あれは・・・」
「2人乗りだから車軸は青銅ね。衣装からするとエジプト戦車隊かしら」
見たところ剣と盾も青銅のようだ。古代エジプトでは鉄は生産出来なかったから、歴史的には正しい。そこまで忠実に再現する必要があるかと聞かれれば、無いと答えるけどな。
「あれなら接近出来れば何とかなるわ。『チャリオット』はお願い。『タンク』は任せておいて!」
生き残るには彼女の言う通りにするしかない。覚悟を決めて戦車隊へと走る。
「ぬおっ、撃て、撃てっ!」
幸い、集まっている戦車は第二次世界大戦以前の物しかない。手動で照準を合わせなければならない上に練度も低いようで、命中弾は一発も無かった。
それでも至近弾の衝撃によろけそうになるが、何とか戦車に向かい突進していった。




