番外編 夫婦の出会い⑨
「ぐぎゃっ!」
「ひでぶっ!」
「も、もっとぉ・・・」
踏まれた兵士の悲鳴を聞きながら・・・悲鳴以外もあったような気もするが無視して走る。脇から迫る銃把を腕で逸らし、蹴りを喰らわせる。正面からの兵士を盾で防ぎ右ストレートでKO。
「こいつっ!」
「馬鹿者、味方に当たる!」
自動小銃を構えた兵士が上官らしき男に止められていた。その隙に接近し、横から盾を構え体当たり。2人は揃って吹き飛んだ。
「あら、最後はとられちゃったわね」
「へっ?」
辺りを見回すと、周辺に立っているのは俺と彼女のみ。敵兵は全員倒れていた。
「Oh!全滅でーす!ジャパニーズ防弾着、最高でーす!」
ジープで追いかけてきたウィロビーがHAHAHAと笑いながら肩を叩く。頼むから日本の防弾着はこれが標準だと思わないで欲しい。
「さて、スッキリしたし帰りましょうか」
極上の笑顔を見せているが、騙されてはいけない。彼女がこの惨状を生み出したのだから。
「この兵士達は?」
「回収するのは敵の仕事でーす」
「私達が連れ帰ったら大変よ。回収の手間に治療、食事まで面倒みるのよ?」
言われてみればその通りだ。非人道的と言われようが、それが戦争というものである。小説で敵は殺さずに重傷を負わせるのが最も痛手を与えると読んだが、それを実感する事になるとは思わなかった。
ジープに揺られて大使館へと帰る。隣には良い笑顔を浮かべる謎の美少女が座っている。
「スッキリしたわ~ストレス解消には暴れるのが一番ね」
「ストレス解消で部隊を壊滅させられた指揮官と敵軍に心から同情するよ・・・」
通常の戦闘での損害ならばまだしも、一人の女性の鬱憤晴らしの対象になって壊滅とか笑えやしない。
「ウィロビーさん、他にも膠着している戦線ってあったわよね」
「あったもなにも、ほぼ全ての戦線で膠着してまーす」
それを聞いて、嫌な予感が頭をよぎる。しかし聞きたくないセリフが容赦なく彼女の口から発せられた。
「なら、明日からも楽しめそうね。楽しみだわ~」
そうですか。明日からも銃撃に耐えて突貫するんですか。反論する元気もない俺は、そのままジープの中で眠りについてしまった。
目覚めたのは翌朝。一応大使館のベッドに運ばれたようだが、鎧を着たまま眠ってしまったので体の節々が痛い。せめて鎧だけは脱がして欲しかった。
「おはよう。今日も絶好の戦闘日和よ」
「おはようございます・・・」
笑顔で手渡されたサンドイッチで朝食をとると、迎えにきたウィロビーのジープでまたもや戦場へと送られる。
「あははははは!」
「こうなりゃヤケだー!」
赤いチャイナ服の彼女と共に無双していく。こうなったら全部の戦線で敵を壊滅させて終わらせてやる。




