番外編 夫婦の出会い⑧
「ちょっと待て、それは絶対に無理だから!」
鎧で対戦車噴進砲を防げってのは無理がある。どうしてもやるならウィロビーが着て試して欲しい。
「ジョークジョーク、アメリカンジョークでーす」
HAHAHAと笑いながら砲を降ろすが、絶対に嘘だ。抗議していなかったら撃っていたに違いない。
「さて、後は実地試験だけね」
「へっ?試験は終わりじゃ?」
模擬弾ではない実弾を防いでみせたし、これで終了の筈だ。充分実地で試験を行ったと言えるだろう。
「そんな訳ないでしょ。ほら、盾を持って」
渡された盾をそのまま受けとると、またジープに載せられた。向かった先は実弾飛び交う掛け値なしの最前線であった。
「行くわよ、突撃ー!」
「どわーーーーーー!」
ジープから降ろされると、背中を押され銃弾飛び交う最前線へ。味方の戦列を抜け、前方からの銃撃に晒された。
「あたっ、あたたたっ、痛いって!」
時折カン、カン、と弾が当たる。銃弾自体は防ぐのだが、着弾時の衝撃までは防げない。それが結構痛かったりする。
「男でしょ、我慢我慢。・・・もうちょい、ここっ!」
敵陣に近付いた所で背中と頭に衝撃が走る。ショックで下を向いた頭を上げると、両膝を抱えた彼女がクルクルと回転しながら飛んでいっていた。
「お、俺を踏み台にしたぁ!」
おいおい、機種が違うぞ。しかも、後ろからじゃなく正面からだろ。敵陣へと到達した彼女は、両足を揃えて敵兵の顔に着地した。
蹴られた兵士は鼻血を吹きながら倒れ、その反動を利用して別の兵士の顔へ蹴りをかました彼女は地面へと足をつける。
硬直し、何も出来ない敵兵。その隙を見逃すはずもない。彼女の蹴りが手近な位置にいた兵の腹を捉え、肘が顎をかち上げ、拳が顔面にめり込む。
「・・・て、敵は1人だ。囲めー!」
指揮官らしき男が叫んだ時には、10人の兵士が地に倒れ伏していた。その間にも次々と倒されていく兵士達。
「まったく、どうしてこうなったんだか・・・」
イラストを頼みに来ただけなのに、何故に最前線で白兵戦をせねばならないのか。嘆いていても現状は変わらないし、彼女を敵陣に放置するわけにもいかないので俺も敵陣へと突っ込む。
「うわっ、こっちも来たぞ!」
敵陣真っ只中で無双する彼女に気を取られていた敵は、俺の存在を今の今まで忘れていた。そのため、1発の弾も喰らわずに敵陣の外縁へと到達する事が出来た。
「くそっ!」
自動小銃で殴りかかる兵士を盾で防ぎ、左へと逸らす。がら空きになった胴体へと盾ごと体当たりし吹き飛ばした。数人が巻き込まれ倒れた上を走り抜け、彼女の方へと進んだ。




