番外編 夫婦の出会い③
「防弾着のモニター?それだけならば頼む!」
ただ防弾着のモニターをするだけで良いのなら、と飛び付いてしまった。条件が緩かった上に、これ以外に会いに行く手段が無いのだ。
「そう言うと思ったよ。急だが出発は明日の朝だ。飛行機の都合があるからな。朝7時に迎えに行くから準備しとけよ?」
「わかった。パスポートは持ってるからいいが、他に必要な物はあるか?」
外国に行くときは梅干しが必需品だと聞いた事がある。外国に行くと日本の味が恋しくなるが、外国で日本食を入手するのは難しいらしい。
「乗る飛行機は民間のちゃんとした旅客機ではない。だからサービスには期待するな。ただ、食事は提供してくれるから心配ない。味は・・・我慢しろ」
入国できない国に入るのだから、まともな手段だなどとは思わない。食事に贅沢のんて言うつもりも無かった。
「あと、荷物は最小限にな。乗る飛行機にあまり大きな荷物は乗せられないから、小型の旅行鞄一つ位に収めるんだ」
「おいおい、それはいくらなんでも変じゃないか?密航させるつもりじゃないだろうな」
頼っておいて文句を言うなと言われそうだが、流石に法を犯す真似はするつもりはない。目的を達成しても帰国して逮捕されました、では意味がない。
「理由は明日になればわかる。法に触れない事だけは保証する。どうしてもセリカスタンに行きたいんだろう?ならばつべこべ抜かすな」
俺はどうしても内乱が続く国、セリカスタンに行かねばならない。犯罪者として追われる事がないというのなら任せるしか選択肢は無いのだ。
「そうだな。よろしく頼む」
「ああ。明日迎えに行くからな」
店員さんのスマイルに見送られ店を出る。松原と別れ自宅に帰ると、すぐに旅支度を整えた。
翌朝、松原が自家用車で迎えに来た。真っ赤なポルシェ931なんて似合わねぇ。乗っているのが美人なら気ままな一人旅してそうだが。
「何か失礼な事を考えてないか?」
「気のせいだ、早く行こうぜ」
大宮を出た車は国道16号線を西に向かって走る。国際空港である成田に向かうなら逆方向だ。
「予想はしていたが、成田や羽田には行かないのだな」
「日本からはセリカスタンに行けないからな。アメリカに向かい、そこから物資を運ぶ飛行機に載せてもらう手はずだ」
まともな手段では行けない国なので、納得のいく回答ではある。しかし、松原の答えには引っ掛かるものがあった。
「言葉のニュアンスがおかしくなかったか?」
「細かい事を気にするな。目的地はもうすぐだぞ」
福生に入り、車は金網に囲まれた広大な敷地に沿って走る。ゲートで止まると松原は寄ってきた兵士と言葉を交わす。
「飛行機は既に準備しているそうだ、急ぐぞ」
ポルシェを急発進させる松原。おい、アメリカから飛行機に乗るとは聞いたけど、空軍基地から乗るとは聞いていないぞ。




