第二百八十四話 急転直下
見下した目で困惑するお巡りさんを見る新白岡と、絶対に立ち入らせないとの決意を露わに新白岡を睨む警備員さん。そんな緊迫した空気を余所に、一台の車がパトカーの後ろに停りました。
停止した黒塗りの高級車から中年の男性が降りてきます。しかし新白岡と違って贅肉の無い引き締まった体に高そうなセンスの良いスーツを着こなしています。
「出来れば社長とユウリさんにお会いしたかったのだが、どうやら取り込み中のようですね」
絵になる仕草でサングラスを外した男性は、絵に書いたような金髪碧眼の白人男性でした。どう見ても日本人ではないのですが、操る日本語には違和感を感じません。
「俺の婚約者に何の用だ?何処の誰かは知らないが下賤な平民は引っ込んでろ!」
ユウリの名に反応した新白岡は、誰かも知らない相手に暴言を吐き胸を突いて押し返そうとしました。
しかし、体のあちこちに贅肉を装備したどう見ても鍛えていない新白岡の力ではムキムキではないにしろ程よく鍛えられたと見られる外人さんを動かす事も出来ませんでした。
「警備の方、この無礼者は何ですか?」
「ふっ、これだから教養のない外国人は困る。よく聞けよ、俺は次期総理大臣確定と名高い新白岡葛尾様だ。俺の婚約者に会うなんて無謀な夢は捨てるのだな」
「この男の自称で、ユウリさんは知らないそうです」
新白岡の名乗りに律儀に補足説明を行う警備員さん。外人さんは無表情なので感情が一切読めません。そこにもう一台黒塗りのセダンが停りました。
降りてきたのはスーツを着た男性が四人。皆鍛えていて武術を修めているのが動きから読み取れます。何気に周囲に視線を向けて警戒もしているので、堅気ではないでしょう。
「大使、予定と違うとガードの方が慌てていましたよ」
「近くを通ったので、ユウリさんと所属事務所の社長さんに会いたくなってね」
流れるように右前、左前、右後ろ、左後ろに位置して大使と呼ばれた外人さんを守る四人の男性。SPかもしれません。
「あの、どちら様で・・・」
どう見ても只者ではない五人に、恐る恐る質問するお巡りさん。出来れば聞きたくないけれど、職務上聞かないわけにもいかないから聞くしかないという諦観が見え隠れしています。
「このお方は米国大使館のヒュースケン大使だ。そこの者が大使に暴力をふるったようだな。暴行の現行犯で逮捕するように。我々は内調の者だ」
新白岡は自分が暴言を吐き暴行した相手の身分を知り蒼白になっています。東京都都議の権力が内閣調査室や米国大使館よりも上とは誰も思わないでしょう。
新白岡は手錠を嵌められパトカーに乗せられました。左右には制服警官と内閣調査室の人が座って逃げ場はありません。
大使も事情説明の為に警察署に出向くと自ら言い出し、内閣調査室の人と去っていきました。残ったのは二人の警備員さんのみ。二人は後日この映像のコピーを持って警察署に行くそうです。
「何だか、意外な展開で意外な終わり方をしたわね。こんな時に米国大使が来るなんて、偶然は恐ろしいわ」
しみじみと呟く桶川さんですが、本当に偶然なのでしょうか。それを知る人はコスプレして挿絵を書いているような気がします。




