第二百八十三話 イキる新白岡
「新白岡さんはチョコをユウリさん本人から貰ったのですか?」
「ユウリちゃんは奥ゆかしいからな。分家の白岡を通じて渡してくれたのだ。あの男、無能だがテレビ局に就職して俺とユウリちゃんの橋渡しになった事だけは褒めてやで良いな。分不相応な勘違いをして『これは俺がユウリさんから貰ったチョコだ』と中々離さなかったのはムカついたが」
つまり、私が渡したのではなく私が渡した白岡氏から奪ったという事なのでしょう。その上で私が本命チョコを渡したと思い込むなんて、常軌を逸してます。
「桶川さん、お巡りさん呼んだ方が良くないですか?」
「通報しました」
私が言うまでもなく通報済のようです。お巡りさんの到着を待つ間にも警備員さんと新白岡の言い合いは続きます。
「通せと言っている。こんな会社、タレントを使わぬようテレビ局に圧力を掛ければすぐにでも潰せるのだぞ。テレビ局なんて認可を取り消すと脅せば言いなりだからな」
「桶川さん、放送事業は総務省の所轄で東京都庁は関係してないわよね?」
「例えしていても一議員の、秘書でもない子供の命令で許認可取り消すなんてあり得ないわよ」
新白岡の支離滅裂な脅迫に対して桶川さんと突っ込み大会を開催していると、サイレンの音を響かせてパトカーがやってきました。制服を着たお巡りさんが二人、パトカーから降りてきます。
「不審な男が押し入ろうとしていると通報かありましたが」
「良い所に来たな公僕。こいつらがユウリちゃんに会うのを邪魔するのだ。逮捕して極刑に処してくれ」
到着したお巡りさんが見たのは尊大な口調で命令してくる太った男と、それに対峙する警備員さんの姿でした。どちらが正しいのかは瞬時に判断出来ますが、双方の言い分を聞かねばならないのが警察官という職業です。
「婚約者のユウリちゃんに会いに来たというのに、こいつらが邪魔をするのだ。とっとと連れて行け!」
「こちら、新白岡都議のご子息だそうで。聞いての通りユウリさんの婚約者を自称されていますが、社長がユウリさんに確認してところご存知ないとの事でお引取りを願いました。しかしお帰り頂けないので通報して次第です」
話を聞いたお巡りさんは顔を見合わせると、深いため息を付きました。疲れたような表情が「こんな下らない事で呼ぶなよ・・・」と語っています。
「とりあえず威力業務妨害の容疑で同行願いましょうか」
「はあ?逮捕するのはこいつらだろう。おい木端役人、都庁に逆らって東京都で公務員やれると思うなよ?」
近付くお巡りさんを脅迫する新白岡。困惑したお巡りさんは無線機で指示を仰いでいます。まさか、そのまま帰ってしまったりしないですよね?




