第二百八十一話 招かざれる客
「中身が食品の物はあっちへ!」
「おい、その縫いぐるみ金属探知機はかけたのか?」
現在、桶川プロの地下駐車場は多くの人が梱包された荷を持ち行き交う戦場と化しています。荷を捌いても捌いても次から次へと運送会社のトラックが追加の荷を運び込んで来るのです。
「賽の河原で石積むのって、こういう感じなのかなぁ」
「終わりが見えないってキツイよなぁ」
淡々と処理する社員さんの目からハイライトが消えています。そうこうしているうちにまた追加の荷が運ばれて来ました。
「しかし、これ全部廃棄するのか。市販の奴なら開けられてないし安全だろ」
「お前、これやるの今年が初めてか。ぱっと見未開封でも注射器で薬仕込んでたり、箱に発信機仕込んだ後わからないように封をし直されてたりという前例があったらしいからなぁ」
仕分けの手を休ませずにされる会話に耳を傾けます。私達を応援してくれる事自体は有り難いのですが、こういう行き過ぎた人のせいで普通の方の好意を受け取れなくなるのです。
「この量のプレゼントを薬物が混入しているかどうかの検査を一々やってもいられないからな。タレントの安全を考えれば廃棄の一択さ」
「勿体ないから寄付しようにも、寄付したら薬物入でしたでは洒落にもなりませんね」
などと交わされる雑談を聞きながら作業をしていると、怒鳴り声が聞こえてきました。
「だから、ホワイトデーのプレゼントを直接渡しに来ただけだ!」
「ですから、所属タレントへのプレゼントはお断りしているのです。当社の規定に従って廃棄する旨公式ホームページにも記載しています。お帰り下さい!」
どうやら桶川プロ所属のタレントのファンが直にプレゼントを渡そうと押しかけて来たようです。警備員と思われる方が大きな声で追い返そうとしているのも聞こえますが、ファンは聞く耳を持たないようです。
「それは有象無象の話だろう?俺はユウリちゃんの婚約者だぞ、そこらの雑魚とは訳が違うんだよ!」
その声が聞こえてきた瞬間、私を含めた全員の動きが止まりました。私には婚約者なんて存在しない筈です。お父さんかお母さんが私に黙って・・・という事もまず無いでしょう。
とりあえず憶測で行動するのは憚られる事案なので、お父さんとお母さんに自称婚約者が桶川プロに現れた事、心当たりがあれば教えて欲しいとメールで送りました。
程なくして両親共に心当たりが無く騙りだろうから強硬手段に出ても良いという事と、DQNな相手だろうから両親の方でも手を打つとの返事がありました。




