第二百七十五話 祭りの終わり
「では問題の続きを」
「地震の後小さな地震が発生する事を余震と言いますが、自分の実力をかだ」
問題の続きを言い切らないうちに早押しボタンが押されました。ボタンを押したベテラン俳優の七里さんは緊張した面持ちで答えます。
「過信・・・です」
「・・・正解です、七里さん逆転優勝です!」
ファンフーレが鳴り、七里さんの頭上に吊られたくす玉が割れました。若手の皆は漁夫に利を浚われて消沈しています。
「くっ、優勝して目立ち、チョコを貰う計画が・・・」
いい所を見せてチョコを貰おうというつもりだったようです。しかし、それは考えが甘すぎます。目当てがチョコなだけに。
「今いい所を見せても、もう遅いと思うのは私だけですかね」
「渡すには事前の準備もいるし、貰おうとするなら今日の今日ではなぁ・・・」
落胆に追い打ちをかけられ、完全に撃沈する若手の男性陣。こんな彼らに哀れみの視線を向けつつも番組の進行を続けます。
「初の生放送は、ベテランの貫禄を見せつけた七里さんの優勝で幕を閉じました」
「来週も脳力試験をお楽しみに!」
喜ぶ七里さんの姿にエンディング曲が流れて番組は終了です。キッチリと時間で終わらせる事が出来ました。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様、今日も楽しかったね」
朝霞さんは笑顔で言いますが、私は結構疲れてしまいました。生放送なので、時間で終わらせなくてはいけないというプレッシャーもあったのです。
「ユウリちゃん、生放送で疲れたかな?」
「無理はしないでね。早く帰って休みなよ」
共演者やスタッフの皆さんに気遣われ控え室へ戻ります。学校での戦いに続いての生放送は思ったよりも体力と精神力を削ったようで、控え室に居た桶川さんと車に乗るなり眠ってしまいました。
翌朝。妙にツヤツヤしてご機嫌なお母さんと、対照的にゲッソリとしたお父さんと一緒に朝御飯を食べます。由紀は部活の朝練ですでに登校したのでここには居ません。
「お母さん、やけに上機嫌ね」
「チョコレートに仕込んだお薬がよく効いてくれたから」
お母さんは笑顔で答えてくれましたが、どんな薬を仕込んだのかは聞く気にはなりませんでした。世の中、知らない方が幸せな事はあるのです。
「ところで、チタン合金の金庫って手に入らないかしら?」
「物騒な材質を要求するわね。一体何をしまうつもりなのかしら?」
放射能の問題さえなければ、劣化ウランを使いたいくらいですよ、お母さん。
「友子に貰ったチョコレートよ。チョコレートと言えるならね」
鞄から昨日の箱を取り出してお母さんに渡します。お母さんは謎の鳴き声をあげる箱をまじまじと見て深くため息を付きました。
「・・・これはミスリルやアダマンタイトとかの方が良さそうね。手に入るかしら?」
ファンタジーで定番の超金属の名前をあげるお母さん。気持ちはわかります。
「友子なら、手に入るかもね」
謎物質を送ってもらえた友子なら可能かもしれません。あの子なら世界を超えられると告げられても驚きません。
「とりあえずこれは厳重に保管しておくわ。」
「ありがとう、行ってきます」
キシャー、キシャーと鳴き声をあげる箱をお母さんに託し学校に向かいます。バレンタインも終わったし、今日からまた普通の1日が始まるのです。
そうそう、友子には、美味しかったと嘘をついておきましょう。私にはあれを食べる勇気はありません。




