第二百七十三話 生放送の理由
スタジオ入りすると、一斉に注目が集まります。私と桶川さんは紙袋を持っているので、男性諸氏はチョコレートを貰えると期待しているようです。
「ユウリさん、その紙袋はもしかして・・・」
「ちゃんとKUKI君の分もあるわよ、はい」
そう言って差し出されたKUKI君の手のひらにチョコレートを置きました。嬉しそうな表情を浮かべたKUKI君でしたが、次の瞬間には目に見えて落胆していました。
「うわぁ、ありがとう!・・・って、ベビーチョコ1粒!」
ベビーチョコであろうとも、チョコレートはチョコレートです。まあ、それは冗談でちゃんとしたチョコレートも用意してあるので渡します。
「冗談よ冗談、本当はこっちよ。」
「ユウリさんも人が悪いなぁ。・・・ってたけのこの里1つかよ!」
きのこもたけのこも美味しくて好きですが、どちらかと言うとたけのこ派です。この論争は人類が存在する限り終わる事は無いでしょう。
「皆さんの分もありますよ、いつもお世話になってます」
スタッフさんや共演者の方々に男女の区別なくチョコレートを渡していきます。皆さん喜んでくれているようで何よりです。
「ほらほら、冗談なんだからいつまでも落ち込まない。どうせ大量に貰ってるのでしょう?」
「ううっ、確かに貰ったけど、ユウリさんの奴以外は嬉しくない」
さめざめと泣くKUKI君に皆と同じチョコレートを渡します。何とか立ち直り、KUKI君笑顔を見せてくれました。
「さあ、リハーサル始めますよ!」
今日は生放送なので、流れを追って念入りに確認してい来ます。クイズ自体は仕込みなしの真剣勝負、トークは出たとこ勝負なので大雑把ではあるのですが、録画と違いやり直しはできません。
オープニングからエンディングまでの流れを一通り確認した所で休憩に入ります。一発勝負の生放送前とあって、緊張感が漂います。
「これ、毎週やれって言われたらやれるか?」
「俺は御免だな。あの番組は偉大だったなぁ」
年上の共演者の方は昔やっていたバラエティー番組の話に花を咲かせていました。毎週各地のホールを転々と移動し、コントを生放送でやっていた番組ですね。
「停電で真っ暗だった時は驚いたよなぁ」
「8時5分過ぎだよ!の掛け声には笑ったが」
「毎回違う会場にセットを設営して大掛かりなコントなんて、今では絶対に出来ないだろ」
伝説的なバラエティー番組の談義をしているうちに放送時間が迫ってきました。ADさんが折る指が番組開始の時を告げます。
「今週も脳力試験の時間がやってまいりました!」
「今週はなんと生放送!プロデューサー、危険な賭けに出ましたね」
見学者の皆さんが爆笑します。しかし俎上に乗せられたプロデューサーさんは始まったばかりだというのに笑顔でサムズアップしています。
「賭けには勝ちましたよ。ユウリちゃんからのチョコレート貰いたさに生放送にしたんですから」
「そんな理由で生放送?!」
プロデューサーさん本人から明かされた生放送となった理由に、再び観客席から笑い声が響きました。本当にそんな理由だとは思いませんが、笑いは取ることが出来ました。
「因みに俺達もユーリちゃんから貰いました。チョコレート貰って上機嫌のメンバーでお送りします。クイズ脳力試験、スタート!」
音楽が鳴りCMに移ります。その間、見学者の皆さんを退屈させないためにトークを繋げましょう。
普段の録画ならばすぐクイズに移るのですが、生放送なのでCMの間は時間稼ぎをしなければなりません。
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