第二百七十二話 仁義なきバレンタイン
「HRを始めるぞ。連絡事項は特になし。俺へのチョコレートは随時受け付けてるから、遠慮せずに持ってくるように。以上!」
先生が敷物を踏み教室から出ると、同時にあちこちから声が聞こえました。
「チョコレート、貰えると思ってるのかしら?」
「なあ、先生がいくつ貰えるか賭けないか?俺は0に全財産を賭ける」
「賭けにならねえよ。おーい、先生がチョコレートを一つでも貰えると思うやついるか?」
静まり返り、声を挙げる者の居ない教室。予想された通り、誰も反応しませんでした。
一時間目が終わり、次の体育に備えて移動します。男子は別なので敵襲に備え気を張らなくても良いのは楽でした。
「あそこまで欲しいのかなぁ」
「男子には存在意義を問われる事柄らしいわよ」
意地とか面子とか、男子とは難儀な生き物なようです。まあ、女子でもカーストやらマウントを取ったりとかあるようですが、私はまるっと無視しています。
「遊、早く行きましょう。グレーシー柔術の授業は嫌いだけど、遅刻したら先生が怖いわ」
遅刻をすると先生と模擬戦をさせられてしまいます。私は勝てるから良いのですが、友子にとっては大問題です。
ギリギリで遅刻は免れましたが、キツい練習に友子は半死半生の状態になってしまいました。
私はこれで早退するのて、友子には独力で過酷な戦線を生き抜いてもらわねばなりません。
「私は仕事で抜けるわ。友子、健闘を祈る。生きて帰ってきてね」
「遊ー!カムバーック!」
ひき止めようとする友子を振り切り自宅へ帰ります。着替えてチョコレートの準備をしなくてはなりません。
家に着くと、すでに桶川さんの車が門の前に止まっていました。
「桶川さん、早かったですね」
「遊ちゃんお帰りなさい。チョコレートの積込があったから早めに来たのよ」
桶川プロの皆さんへの分に番組スタッフさんに配る物もあるので、運ぶチョコレートの量はかなりの物となります。
「遊、お帰りなさい。積み込みは終わっているわ。早く着替えてらっしゃい」
「お母さんありがとう」
テレビ局に直行なのでユウリの姿になりました。車が門の前に横付けされているので、ご近所の目を気にする必要はありません。
「お待たせしました。行ってきます」
「行ってらっしゃい、今日も頑張ってね」
お母さんに見送られて仕事に出ます。お父さんは締め切りが近いので必死にお仕事をしている最中です。スムーズに書ける時はかなり進むけど、アイデアが浮かばない時は中々進まないみたいです。
「今日は学校で男子は必死でしたよ」
「うちの社内でもチョコレート紛争が起きてたわ」
他愛ない話をしているうちにテレビ局に到着しました。果たしてテレビ局の様子はどうなっているのでしょうか。




