第二十七話 期待とプレッシャー
今日事務所に顔を出したのは、桶川さんと天職について話すためではありません。脳力試験での評判を聞き付けた出版社から取材申し込みを受けたからです。
今回取材の申し込みをしてきたのは、電車の中吊り広告も出している一般的な週刊誌です。前回はアニメファン向けの雑誌でしたが、今回は一般の人が見る雑誌なので、講読者数も桁違いです。
出版社に向かう車の中。私は今朝の出来事を思い返していました。一度だけテレビに出ただけであんな事になりました。一般紙に顔が載ったらどうなってしまうやら。
「あ、そうそう。脳力試験から出演依頼が来たわよ。まだゲストだけど、レギュラー狙うそうよ」
私の思考を打ち切るように桶川さんから爆弾発言が飛び出しました。クイズ番組のレギュラーなんて、早々なれるとは思えません。社交辞令ではないでしょうか。
「優勝してるし、受けも良かったみたいよ。やっぱり、ユウリちゃんの可愛さはすごい武器だわ」
「武器って、テレビだから多少見た目も考慮されるとは思いますけど、少し大げさではないですか?」
「大げさではないわよ。前にも言ったけど、ユウリちゃんの外見は強力な武器だわ」
うーん、容姿よりも声とか演技を誉められたいです。私は俳優ではなく声優なのだから。
「声が売りの声優で、容姿を武器にですか?」
「そうなのよ。本来は声が武器なのよね、声優は」
「『本来は』って言うことは、今は違うと?」
どういう事でしょう。声優雑誌に写真が載ったり、朝霞さんのようにテレビの司会をする人も居るので、完全に声と演技だけで勝負する訳ではないと知っています。
しかし、本業はアニメや洋画へ声をあてる事なので、それが一番大事な筈です。
「日本のアニメは世界に浸透して、その数も増えたわ。そして、声優という職業もメジャーになった。でもね、仕事が増えた反面声優志望者の数も劇的に増えたのよ。さらに、俳優やお笑いタレントまで声優の真似事をする始末」
「そういえば最近、アニメ映画で俳優とかがやってますね」
興味が無かった私でも、テレビの宣伝とかで知っています。時々由紀が、あんな大根使うな、原作に対する冒涜だって怒っていました。
「制作サイドはヒットさせたいから、無名な声優はなかなか使わなくなったわ。だから新人は仕事が少ないの」
声優業界も、かなり厳しいようです。もちろん、どんな仕事も厳しいと思っていましたが、こうやって業界の人から聞くと重みが違います。
「で、声や演技力の他に歌唱力や容姿も要求されるってわけ。ユウリちゃんはそれを全てクリアしてるんだから、期待してるわよ!」
「期待されるのは勝手ですけど、応えられるかどうかは分かりませんよ?」
やるからには全力を尽くすつもりですが、今までのようにアマチュアの選手として期待されるのではなく、一人のプロとしての期待です。
両親はこんなプレッシャーに打ち勝ち人気作家や人気イラストレーターとしての地位と名声を守っているのかと思うと頭が下がります。
「ユウリちゃんならば気負わずに自然体で仕事すれば充分よ」
「それ、プレッシャー掛けた人が言いますか?とりあえず、目の前の仕事をこなしましょう」
インタビューは苦手ですが、これも声優のお仕事です。堅実にこなしていきましょう。




