第二百六十四話 チョコの重要性
翌日、一時間目終了後に帰り支度を始めます。目敏くそれを見て友子が寄ってきました。
「遊、次は体育よ。まだ帰り支度は早いわ」
「ちょっと予定に変更があってね。校長室に寄って2時間目から早退するわ」
「いいなぁ、セパタクローやりたくないわ。私も早退しようかなぁ」
ぐずる友子をなだめ校長室に行きます。校長先生はトーン貼りの手を休めてお茶を淹れてくれました。校長先生、勤務時間内に何をやっているのですか。
「校長先生、仕事は?」
「先生方が優秀ですからね、時間は結構あるのですよ」
進学校の校長先生がこれで良いのでしょうか。教育委員会の方々と小一時間程お話をしたいという欲求に駆られてしまいます。
「して、お話とは?」
「チョコレート作りが忙しくなりそうなので、1日学校を休みます」
理由を単刀直入に伝えます。他に言いようもありませんし、濁した所で結果は変わりません。
「教育者としては看過出来ませんが、態々それを言いに来たと言うことは訳があるのですな?」
「少々大量に作る事になりまして・・・」
理由を赤裸々に説明しました。無理ならば普通に欠席してチョコレート作りを優先するつもりです。
「「そのチョコレート、私にもいただけるなら許可しましょう!」」
条件付きで許可が出ました。その発言が後ろからも聞こえたのでふりむくと、教頭先生が立っていました。気配を感じなかったのですが、何時から居たのでしょう。
「ふっ、気付かれず声優さんを見守るため、修練は欠かしてませんからな!」
「それって、ただのストーカーでは?」
「「失礼な!我々は声優さんを人知れず守るただの紳士だ!」」
善良な一市民としては、不審な人を見かけたらオマワリを呼ばねばなりません。おまわりさーん、この人たちです!
「で、我々の崇高な使命は置いておくとして、チョコレートは・・・」
「ちゃんと渡しますよ」
2人分増えたところで手間に変わりはありません。材料は多めに頼んでいるので足りなくなる事も無いでしょう。
「「よっしゃあー!」」
ハイタッチして浮かれる両先生。完全に義理なのですが、そこまで嬉しい物なのでしょうか。
「嫁さん以外からのチョコレートなんて何年ぶりだか!」
「娘がくれなくなって初のチョコレートだ!」
嬉し涙を流す2人に高校在籍中はあげようと絆されてしまいましたが、口に出すと調子に乗りそうなので言いません。
「では休む日が決まったら報告しますね」
「何があろうと公欠にします!」
最敬礼で見送られ校長室を出ます。今日は事務所で着替えてからお仕事なので家には寄らずに直行しました。
電車を乗り継ぎ事務所に到着。ユウリになり桶川さんとテレビ局へと出勤します。
すれ違う男性諸氏がチラチラとこちらを盗み見ています。この姿の時はチラ見される事はありますが、今日は頻度が多いように感じます。
「男性は皆必死ね」
「校長先生にチョコレート渡す約束したら嬉し涙を流されました」
女の私達には分かりませんが、余程重大なのでしょう。期待するような眼差しを受けながらスタジオ入を果たすのでした。




