第二百六十二話 バレンタインの裏事情
お久しぶりです。区切りの良い所まで書けたので更新します。
1月も終わりに近付き、世間はお菓子会社のキャンペーン真っ最中です。お仕事での話題もそれ一色に染まります。
「ユウリちゃんはチョコレート渡す相手はいるの?」
「家族と友人にしか配った事ないですね。友人も女の子ですよ」
「渡した」ではなく「配った」です。義理だと強調しておきます。
「それは女の子に興味があると?」
司会さんの爆弾発言に、スタジオ見学の女性が目を輝かせています。これはきちんと否定しておかないと、大変な事態になりそうな予感がします。
「いいえ、私はノーマルですよ。今の所気になる男性も居ませんが、女性にも興味はありませんよ」
こういうやり取りは何度目かしら。ほぼ同じ回答で良いのは楽だけど、聞く方はもう少しバリエーション持たせてほしいと思ってしまいます。
その後は特段変わった質問もなく、仕事も終わって帰りの車の中。桶川さんが興味津々な様子で質問してきました。
「・・・で、ユウリちゃんは誰にチョコレートを渡すの?」
「家族と友子、あとは仲の良い声優さんや共演者の皆さんですね」
そう正直に答えると、じっとこちらを見る桶川さん。運転中といえ事を忘れているのではないでしょうか。
「ちゃんと桶川さんにも渡しますよ、だから前を向いて下さい!」
この人がゴールド免許持ってるというのが本当に不思議でなりません。そして、そんな桶川さんの横に乗っている私が無事でいられるのも奇跡なのではと思ってしまいます。
「ユウリちゃんからのチョコレート、楽しみにしてるわよ。ああ、会社の皆にもお願いね。バレンタインは社員を酷使するから、慰撫できるネタがあると助かるわ」
芸能事務所にとって頭が痛いのがファンからの贈り物です。純粋な好意だけなら良いのですが、盗聴機や盗撮カメラ、発信器等を仕組まれた物が来る事もあるのです。
食べ物系は更に大変で、薬物が混入された物がくる事もざらなので全て廃棄するしかありません。
「廃棄の手間も大変ですよね。両親の担当者さんも毎年ぼやいてますよ」
小説のキャラクターにとチョコレートを送ってくるファンの人方もいます。廃棄するしかないからお止め下さいとホームページでも書いているのですが、その効果は高いとは言えません。
「それで『ファンの心がこもった贈り物を捨てるのか』って文句つけられるしねぇ」
「社員の人にもチョコレート用意しますから、何とかモチベーションを維持して下さい」
普段仕事してないように見えても、ちゃんと社員さんの事を思っている桶川さんは良い社長さんなのでしょう。
「・・・ユウリちゃん、今失礼な事を考えなかった?」
「いいえ、桶川さんは社員さんの事を心配する立派な社長さんだなって思っただけですよ」
嘘はついてないわ、嘘は。真偽の魔眼で確認されても大丈夫と断言出来ます。
「まあ良いわ、チョコレートお願いね」
今年は大量に作る必要性が出てきました。カカオの輸入量を大幅に引き上げなくてはなりません。




