第二百五十七話 かけられた疑惑
翌週の火曜日。昨日仕事で学校を休んだ私に友子が不穏な事を告げました。
「うちのクラス内の噂だけど、クラスに芸能人がいるって言われてるらしいわ」
「それは不味いわね」
今はクラス内に留まっていても、やがて外部に拡散していくでしょう。有名人の娘である私の事を拡散しないよう動いてくれているクラスメート達ですが、「有名人の家族」と「有名人自身」では話が違ってきます。
「具体的な事は聞いてないの?」
「良子に情報収集の協力頼んだから、すぐに分かると思うけど・・・」
教室に行きたくなくなりましたが、行かないわけにもいかないので仕方なく歩きます。
「おはよー」
そろそろとドアを開け教室に入ると、それを見つけた良子が手招きしました。
「友子、遊、こっちこっち!」
数人が集まったグループに私達も混ざります。多分例の話となるでしょう。
「例の噂、詳細が判ったわよ」
「どうやら、あのユウリちゃんがうちのクラスにいるみたいなの!」
まさか・・・ばれた?
友子と顔を見合わせます。その割には私へのリアクションが無いのが気になる所です。そんな私の疑問を他所に、真剣な表情の良子はおもむろに続きを語りました。
「転校生の久喜さん、彼女がユウリちゃんみたいなのよ!」
・・・はい?予想の斜め上を行く発言に、完全に固まってしまいました。
「怪しいと思ってたのよ!」
「転校生が正体隠した美人声優だったのんて、テンプレ中のテンプレよね!」
「季節外れの転校も、前の学校で正体がバレそうになったからじゃないかな?」
私の正体がバレていないというのが判って少しほっとしましたが、これを放置すればどんな飛び火が来るのか予想も出来ません。
「友子、ちょっと」
友子を連れて教室の隅へ移動します。これから話す内容は聞かれたくありません。
「噂はガセだったけど、どうするの?」
「それを証明できないのよねぇ」
噂がガセであると証明する手段は、大きく分けて2つあります。彼女がユウリでないと証明するか、誰がユウリかを明かす事です。
後者は問題外なので、彼女がユウリでないと証明するしかありません。しかし、具体的にどうやってするのかという問題があります。
「遊が疑われてないから放置という手もあるけど、影響を考えたら得策ではないわね」
何か良い手はないかと、考え込みます。無意識に頭に手をやり髪をいじり、簡単な手があったと閃きました。
「久喜さんがユウリじゃないって証明する手があったわ」
「え?どんな手?」
「髪の毛よ」
お団子状の三つ編みを指差すと、友子にもわかったようで手を叩きました。
「気がつけば簡単だったわね。でも、久喜さん紛らわしい行動しないでほしいわ」
「彼女にも都合があるから仕方ないのよ」
私と同じような事をしてるので、間違えられても仕方ありません。まあ、それは友子にも言えないのですけど。




