第二百五十五話 先送り
「そういう淡白な若者が増えるから日本の人口は減る一方なのよ。二次元に現を抜かすのもねぇ。所詮架空なんだし!」
「桶川さん、話が大きくなりすぎです。しかも、私の仕事否定してません?」
二次元を否定されたら声優は仕事が成り立ちません。それを愛好する人達相手の商売なのですから。
「あら、ご免なさい。つい業界会議での鬱憤がね」
人口減少=お客さん減少に繋がるため、結構深刻に議論してるそうです。オタク業界は子供・大人の分け隔てなく浸透しているので、すぐに危ないという程ではないらしいですけど。
「さあ、今日も子供たちに夢と希望を振り撒くわよ!」
「次の仕事はオタク雑誌のインタビューだから、子供たちは見ないです」
インタビューだけは好きになれません。だからと言ってやらないわけにはいかないのが辛い所です。
「細かい事は気にしない、着いたわよ!」
車を降りた私は足取りも重くインタビュアーのもとに歩くのでした。
「では、そろそろ時間となりますので終わらせていただきます」
「ユウリさん、お時間をいただきありがとうございました」
桶川さんの終了宣言でインタビュアーさんは素直に退出してくれました。しつこい方だと何とか時間を延長しようとしてくるので、あっさり退いてくれるのは助かります。
「桶川さん、今日のインタビューはプライベートに関する質問が多くなかったですか?」
プライベートと濁していますが、恋愛関連の質問が矢鱈と多かったのです。普段もある質問なのですが、今日は段違いにしつこかったのでうんざりしてしまいました。
「それはそうよ。もうすぐバレンタインデーごあるから、話題のユウリちゃんが誰に本命チョコを渡すのか気にならない方が可怪しいわ」
言われてみれば、そんなイベントがありました。去年までも騒いでいた生徒はいましたが中学生では学校へチョコを持ち込む事など出来ません。
なので学校でイベント発生などという事はなく、校外で渡しただの貰っただのと騒いでいた生徒を遠い世界のように傍観していただけでした。
「まあバレンタインの話は置いておいて、KUKI君結構いい子だと思うのに何で冷たくあしらうのかしら?」
「その理由は今は言えませんね。でも、理由を知れば桶川さんも納得すると思いますよ。ではお疲れ様でした」
丁度家に着いたので車を降ります。桶川さんは何が何やら分からず首をひねっていましたが、今は詳しく説明する気はありません。
ずっと話さない訳にもいきませんが、他の事務所の機密を勝手に話すのも躊躇われます。かと言って許可を取る訳にもいきません。
この問題、どうするのが最適解なのでしょう?




