第二百五十四話 意外と高評価
「さあ、今年初めの脳力試験、始まります!」
「今年もガチで行きますよ!」
撮影に入ればプライベートは忘れます。今の私はどこにでも居るごく普通の女子高生北本遊ではなく、新人声優のユウリなのです。
「問題、黒い体のマレーバク。背中が白いのは誰が乗ったから?」
「はいっ、年明け一発目は栗橋さん!」
問題を出すと同時に俳優の栗橋さんがボタンを押しました。随分と気合が入っているようです。
「お釈迦様!」
「はいっ、正解です。流石は栗橋さん、無駄な知識が多いですね」
「「無駄言うなや!」」
新年早々、栗橋さんと朝霞さんからダブル突っ込み頂きました。そんなこんなで収録は恙無く進み、新年初優勝は栗橋さんが奪っていきました。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様、ユウリちゃんは今年も面白いね!」
すっかり打ち解けたレギュラーさんと雑談します。この仕事の楽しみの一つとなっている時間です。
「皆さん、お疲れ様でした。ユウリちゃん、この後食事でもどう?」
「すいません、まだ仕事があるので」
後から来て図々しくも誘ってきたKUKI君の誘いを丁重に断ります。
「KUKI君、今年もユウリちゃん狙いで行くんだ」
「健気だね」
何だか、年長のレギュラーさんはKUKI君応援みたいな雰囲気になっています。叶うことは絶対に無いのですが、私の口からは公言出来ません。
「KUKI君、今年も一途ね。ユウリちゃんは朝霞さんとどちらを選ぶのかしら?」
「何で2択なんですか?少なくともKUKI君だけはありえませんよ」
その理由を私からは言えません。その後もKUKI君を推す回答者さんに暇を告げて桶川さんと次の仕事に向かいます。
「イケメンだし一途だし悪くないと思うけど、ユウリちゃんはどうしてそこまで頑ななの?」
運転しながら不思議そうに呟く桶川さん。まあ、桶川さんは彼の正体を知らないので仕方ありません。
思うに、あれは正体を隠すためのカモフラージュなのでしょう。女の子と話題になっている男性アイドルが、実は女性だったなんて思いにくいでしょうから。
その相手に私が選ばれたのは何故かは知りませんが、確かめる気ありませんし意味もないから放置する方向でいきます。
「当面、声優の仕事が面白いから恋愛なんて興味ないわ」
「それはそれで嬉しいんだけど、何だか残念だわ」
仕事に専念するのだから桶川さん的には嬉しいでしょう。恋愛に現を抜かした挙げ句、主役を貰っておきながら駆け落ちするよりはマシです。
しかし、そういう人がいたので私は声優になったとも言えます。その点は感謝すべきなのでしょうか。
「ユウリちゃんが誰を好きになっても反対はしないから、駆け落ちだけはしちゃダメよ」
「それは無いですね。少なくとも、KUKI君相手には絶対に有りえません」
「キッパリ否定って言うのもねぇ。ちょっとKUKI君が可哀相だわ」
放っておいて下さい。今のところ男の子に興味はありません。もちろん、女の子にもありませんよ。




