第二百五十二話 季節外れの転校生
冬休みも終わり新学期になりました。退屈な始業式は瞬く間に終わり、教室でHRが始まるのを待っています。そんな時、ドタバタと足音を響かせて一人の男子が教室に駆け込んでく来ました。
「おい、大ニュースだ。転入生が来るってさ!」
「何だと、男か、女か!」
固唾を飲んで見守るクラスメートたち。勿体振るように間を空けた男子は大声で答えました。
「女子だ!」
「「「「ウォーッ!」」」」
「「「「ハァッ・・・」」」」
気炎を上げる男子と対照的に沈む女子。私的にはどちらでも大して変わらないのですが、青春を謳歌する華の高校生には重大な問題なのでしょう。
「ただ新しい生徒が来るってだけで、どうしてあそこまで熱狂出来るのかしら」
「遊なら相手は選り取り見取りでしょうけど、普通は少しでも良い異性とお近づきになろうとするものよ」
そういう友子さんも落胆している様子はありません。まあ、彼女の場合恋人は二次元に作りそうです。
「ほら、早く席につけ。席に着かない奴はお姉さんを俺に紹介しろ!」
一秒と経たずに全員が席に着きました。席に着かなかった生徒は居ませんでしたが、もし席に着かなかった生徒に姉がいなかったらどうするのでしょう?
「何でそんなに速いんだ?」
「そりゃあ、大事な家族を生け贄に差し出したくは無いですから」
男子の誰かが答え、クラスの全員が頷きました。先生は見事に撃沈。でも、同情する気は少しも起きません。私だってあの先生を義兄にしたくありません。
「そこまで言うか、そこまで・・・ああ、忘れてた。今日は転入生がいる。入ってきなさい」
扉を開けて入ってきたのは、黒髪ショートの活発そうな女の子でした。教室内の生徒全員の視線を集めていますが、臆する気配はありません。
「両親の仕事の都合で引っ越してきました、久喜明日香といいます。よろしくお願いします」
お辞儀をする久喜さんに拍手して歓迎の意を現します。そんな中、私はこの声をどこかで聞いた事があるような気がして首を傾げました。しかし、久喜さんの姿に見覚えはありません。
脳内の記憶している音声を彼女の声と声紋照合してみました。
只今検索中です・・・一件該当がありました。
該当者が予想外の人物だったことに脱力し、頭を机に叩きつけてしまいました。小気味良い音がましたが、皆が久喜さんに質問する声でかき消され誰にも気付かれませんでした。
「久喜の机は、空いてるそこだ」
先生が指差したのは、私の隣の席でした。個人的には関わり合いたくないのですが、向こうはそんな心情を知る由もありません。
「久喜です。両親の仕事の手伝いをしているので休みがちになりますけど、よろしくお願いしますね」
「北本遊です。私も同様です。よろしく」
ええ、ええ。そうでしょうとも。彼女は頻繁に学校を休むでしょう。それは容易く想像できるのでした。




