第二百五十一話 桶川さんの置土産
おこたに入り、ミカンを食べながら雑談しました。丸くなって眠る猫がいないのは残念ですが、のんびりとした時間を過ごします。
しかし、楽しい時間は過ぎるのが早いものです。日は既に沈み、星が瞬いていました。
「すっかり長居しちゃったわね」
「家族団らんの時間を邪魔してすいませんでした」
恐縮する2人ですが、由紀は勿論の事両親も楽しそうだったので問題ありません。
「由紀も楽しそうだったし、またいらして下さいね」
「朝霞さんに来てもらって、嬉しいとは思っても迷惑と思うことなんてありえませんから!むしろ、うちに定住してもらっても問題ないです!」
拳に力を込めて力説する由紀。前半は無条件に同意しますが、後半は・・・問題が見当たりません。
何かを閃いたって感じで手を打つ由紀。アニメなら頭の上に電球が輝いているでしょう。
「お姉ちゃんと朝霞さんが結婚すればいいのよ。朝霞さんがお義兄さん・・・最高!」
「ちょっ、由紀ちゃん!?」
いきなりとんでもない発言を繰り出す由紀。朝霞さんはどちらかと言うと好きですが、まだ異性とのお付き合いなんて考えた事もありません。
「私は反対はしないけど、ユウリちゃんにはまだ出産休暇はあげられないわよ」
由紀に乗っかり桶川さんまで私を弄りにきました。結婚を飛ばしての出産発言に、私も朝霞さんも冷静に対応しようとしても慌ててしまいます。
「な、何を言うんですか、桶川さん!」
「それは流石に早すぎねぇ」
慌てる朝霞さんに対して暢気なお母さん。お父さんは石になっています。
「あはは、冗談よ。でも、反対しないっていうのは本当よ。じゃあね、ユウリちゃん!」
「あ、ちょっと、桶川さん!」
逃げる桶川さんに追う朝霞さん。是非とも捕まえて、私の分までお仕置きして下さい。
「まったく、由紀が変な事を言うから・・・」
「だってお似合いだと思ったから。KUKIなんかよりは100倍いいわ」
それは私も同感です。もしどちらかを選べと言われたら、年が近いKUKIよりは朝霞さんを選びます。
「ゆ、遊と由紀は嫁になど出さないぞ!」
「はいはい、あなたは少し静かにしましょうね」
復活したお父さんはお母さんの手により即座に意識を刈り取られました。無音で背後に忍び寄り、頸動脈を的確に圧迫しています。
「き、今日はもう寝ましょう」
「そうね。お休みなさいお母さん、お姉ちゃん」
君子危うきに近寄らず。私達は各々の部屋に戦略的撤退を敢行しました。
それからは(由紀のアフレコお願い攻勢を除けば)平穏な日々でした。そして明日からは新学期です。




