第二百四十七話 初詣の真相
「でも、お姉ちゃんと一緒だったのに何も起こらなかったのは拍子抜けだったわ」
「そうねえ、ユウリちゃんと一緒だったから幽霊と遭う位はあるかと思ったけど」
人をトラブル発生機かのように好き放題言う桶川さんと由紀。そんな事を言うのなら、黙っていようかと思っていた事実を教えてあげましょう。
まあ、私が教えなくともネットで調べれば分かってしまう内容です。遅いか早いかの差でしかないので、教えた後の責任を取るつもりはありません。
「このお寺、大中小寺は七不思議が有名なお寺よ。ネットでも詳しく調べる事は出来るわよ」
「そうよ、私が勧めたのに何故か思い出せなかったわ」
このお寺を勧めてどんなお寺か知っていた筈の桶川さんが立ち止まり、考え込みました。私達も足を止めて通行の邪魔にならないよう駐車場の端に集まります。
「案内して貰ったのは藤の木と宿坊、井戸と雪隠だったよね」
「それに拍子木のお話で五つね。七不思議とすると、残りの二つは?」
朝霞さんとお母さんが言った通り、案内されたのは七不思議のうち五つです。残りの二つは私が答えましょう。
「一つは不断の窯。窯の中で修行をサボり寝ていた僧が、気付かずに窯に火を入れられ焼け死んだそうよ。それ以来、その窯は火を絶やしてはならないのだとか」
焼け死んだ僧と言われ、皆は顔色が青くなりました。恐らく案内の途中に居た火傷を負った僧を思い出したのでしょう。あの小坊主さんは「火傷を負ったのは修行をサボっていたからだ」と言っていたのですから。
「お、お姉ちゃん、あのお坊さんは幽霊だったの?」
「でしょうね。サボりが原因で焼け死に、勤勉な小坊主さんの前に出るのが恥ずかしかったのでしょうね」
夜中まで勉強していた小坊主さんに対して、修行をサボって窯で寝ていた修行僧。死んだ後も比べられるのはどれ程屈辱でしょうね。それも自業自得ですが。
「流石はユウリちゃん、ちゃんと怪奇現象を引き寄せていたのね」
「そこを納得されるのは心外なのですけど」
桶川さんを始めとして、お父さんやお母さん、由紀に朝霞さんまで納得顔なのには猛然と抗議したいところです。
「さて、オチも着いた事だし帰りましょうか」
やるべき事は全て終わったと顔に出ている桶川さんに、一つ忘れている事を思い出させてあげましょう。
「桶川さん、まだ忘れている事がありませんか?」
「え、大中小寺の不思議は全てコンプした筈じゃあ・・・えっ、あれ?」
そうなのです。案内して貰った不思議は五つ。それに不断の窯を加えて六つ。まだ一つの怪異が残っているのです。
「最後の七不思議は油坂。昔夜中にも勉強しようと灯り用の油を盗んでいた小坊主が見つかり、逃げようとして石段で転落し死亡したわ。それ以来、その石段を使うと災難に見舞われるそうよ」
石段に居た小坊主さん。その手には今では使われていない油を使った灯台。案内されていた時に居なかった他の参拝客。それらが示す事は言うまでもありません。
「小坊主さん、無念が晴れて成仏出来るといいわね」
こうして私達の初詣は強烈な思い出を残して終わったのでした。




