第二百四十六話 小坊主さんとの怪異巡り
この回で初詣を終わらせる予定でしたが、長くなるので2話に分けました。
参拝客の途絶えた静かな境内を歩き、次のスポットに到着しました。そこには少し朽ちた古い井戸の跡があり、後ろには説明を書いた看板が立っています。
「これは馬首の井と呼ばれています。昔戦に敗れた武将が落ち延びてきましたが、後難を恐れた住職は匿わなかったそうです。怒った武将は乗っていた馬の首をはね、井戸に投げ込み逃げ出しました。それ以来この井戸を覗くと馬の嘶きが聞こえるそうです」
由紀が試してみたそうでしたが、井戸の周囲には柵があり覗く事は出来なさそうでした。そんな由紀を宥め賺しながら次のスポットを見学します。
「先の武将の奥方もこの寺に逃げ延びましたが、ここで目にしたのは首を斬られた夫の愛馬でした。奥方は武将が討取られたと早合点し、この雪隠にて自害しました。それ以来入ると奥方の霊が現れると伝えられ、開けてはならない開かずの雪隠とされています」
崩れ落ちそうな小さな木造の小屋といった風情の雪隠ですが、ここも柵に囲まれ入れそうにありません。流石の由紀もここは試そうとは思わないようです。
「あとは東山の一口拍子木という言い伝えがあり、何処からともなく拍子木を打つ音が聞こえると寺に何かが起こると伝えられています。と言っても聞こえるのは御住職だけらしいので、私達には聞こえません」
一口拍子木の話を聞きながら歩き、小坊主さんに会った場所まで戻ってきました。
「当寺の言い伝えは以上です。こちらの石段は危ないので山門からお帰り下さい」
「案内していただき、ありがとうございました。次は明るい昼間に参拝したいと思います」
私達を代表して桶川社長がお礼を言いました。小坊主さんは小さく会釈すると小さい声で呟きました。
「こんな灯台を使わなくとも、灯りが簡単に得られる。良い時代になったものです」
「そうですね。そして、学ぼうとさる者は学ぶ機会を与えてもらえる。今はそんな時代です」
私が答えたの意外だったのでしょう。小坊主さんは濡らした目元を見られないように俯くと石段を下って行ってしまい、手にした灯台の火もすぐに見えなくなりました。
「親切なお坊さんに案内してもらえて良かったわね」
「言い伝えも面白かったし、また来てみたいな」
屋台等は出ていませんでしたが、お母さんとお父さんの評価は高かったようです。雑談しながら少し明るい山門に戻ると、新年の参拝に来た人が結構来ていました。
参拝に行く人達とすれ違い、車を停めた駐車場に向かいます。
こうして、親切な小坊主さんに案内された私達の初詣は表向き無事に終了したのでした。
そう、無事に終わった筈なのです。由紀があんな事を言わなければ、皆は余計な事を知らずに済んだのでした。
続き明日更新します。




