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二百四十五話 大中小寺怪異巡り

「参拝客の方々ですか?こちらは暗いので危ないですよ」


「ひ、人魂が喋った!」


 人魂が喋った事に腰を抜かさんばかりに驚く由紀を窘めます。それに対して大人組は驚く事もなく冷静でした。


「由紀、落ち着きなさい。よく見て、人魂なんかじゃないから」


 人魂の正体は小坊主さんが手に持った灯台でした。取手のついた皿に油を入れて芯を差し、火をつけて灯りとする今では殆どお目にかかれない代物です。


「娘が失礼をしてすいません。ご忠告ありがとうございます」


「いえいえ、暗闇にこんな火が灯っていては勘違いされても仕方ありません。ここでお会いしたのも何かのご縁、宜しければ境内をご案内いたしましょう」


 私より少し年下と思われる小坊主さんはこちらの返事を待つことなく歩き出します。私達は断る理由もないので付いていく事にしました。


「当寺には幾つかの怪異が伝説として伝わっております。まずはこの藤です」


 小坊主さんに付いていった先には見事な藤の木が生えていました。灯りは小坊主さんの灯台だけなのですが、妙に明るく見えます。


「昔この寺の住職だった方がお気に入りの稚児の死を受け入れられず鬼と化しました。旅の僧に調伏され、墓標代わりに刺した藤の杖が成長しこの木になったと伝えられています」


「雨月物語で有名な話ね。テレビが取材に来たときにその鬼の霊が映って話題になったらしいわ」


 そのお話は私も知っていたので補足しました。幸い鬼の霊が出現する事はなく、小坊主さんの先導で次のスポットに向かいます。


「当寺の宿坊の一室には立った達磨大師の掛け軸が掛かった部屋が御座います。その掛け軸に足を向けて寝ると、翌朝必ず枕が足の下に置かれているとの事です」


「枕返しって聞いた事があるわ。宿坊の中では見られないわねぇ」


 お母さんが残念そうに呟きます。宿泊の予約をすればその部屋に泊まる事も可能らしいので、一度体験してみるのも面白いかもしれません。


 一旦来た道を戻り本堂脇に来た時、一人のお坊さんが立っているのが見えました。しかし彼は私達に気が付くと隠れるように立ち去ってしまいました。


「申し訳ございません、彼は酷い火傷を負っていまして顔を見られたくないのです」


「そうなのですね。傷が少しでも癒える事をお祈りします」


 朝霞さんの言葉に私も手を合わせ、火傷を負ったお坊さんの傷が癒えるよう祈りました。


「まあ、彼の場合修行をサボっていた時に負った傷なので自業自得なのですけどね。では次の場所に向かいましょう」


 小坊主さんが放った暴露でしんみりした空気が吹き飛びました。この小坊主さん、結構お茶目な性格しているみたいです。

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