第二百四十三話 元旦は大勢で
「ユウリちゃんと朝霞くんがいるなら、私がいても不思議じゃないでしょ」
来訪を私とお母さんに見破られ、少し悔しそうながらも胸を張って言い張る桶川さん。私とお母さんの気配察知から逃れるなら、気配遮断をもっと鍛える必要があります。
「それより、栃木に穴場のお寺があるのだけど一緒に行くというのはどう?」
「それなら僕も混ぜてほしいな。大晦日は仕事もないし」
予想外の桶川さん&朝霞さんの参加表明。両親は断る理由はないでしょうし、由紀は断るはずがありません。声優好きな由紀が人気声優の朝霞さんと初詣に行ける機会を逃すなんて、ボーイング747型機の油圧系統が全滅する確率より有りえません。
「では、大晦日の朝に朝霞さんを拾って迎えに来るわ。お弁当や飲み物も用意するから心配しないでね」
やけにテンションの高い桶川さんが仕切り、大晦日の予定が確定しました。
「それではお邪魔しました。大晦日を楽しみにしています」
桶川さんの車に同乗し朝霞さんも帰って行きました。朝霞さん、無事に帰れれば良いのですけど。まあ、マスコミに追われてなければ普通に運転すると思うし大丈夫でしょう。
「そういえば、どこのお寺なのか名前を聞かなかったわね」
「穴場と言っていたし、重複してはいないと思うが・・・まあ、行った事があるお寺でも支障がある訳でもないし、別に問題無いだろう」
楽観的な答えをお母さんに返すお父さん。私も拘りがある訳ではないので、前に行った事があるお寺でも別に構いません。
「私は朝霞さんとユウリさんと共に初詣に行けるだけで満足だわ。お父さん、撮影機材は最新式の物を。それと、暗いだろうから光量増幅装置を・・・」
既に暴走気味の由紀。これは何とかして止めないと、当日どんな事になるか不安です。
「由紀、ただ初詣に行くだけなのだから撮影機材とか持っていかないわよ。それに、行くときは遊で行くからね」
元旦のお寺なんて人が集まる場所にユウリで行くなんて、態々とトラブルを引き起こしに行くようなものです。ごく普通の女子高生として平穏に過ごしたい私にはそんな真似は出来ません。
「遊ちゃん、朝霞さんが同行する時点で多少のトラブルはあるでしょうから無駄な足掻きよ。それに桶川社長も居るのだからユウリで行く方が自然だわ」
「お母さんの言う通りよ。それと、誰が極普通の女子高生なの?まさかお姉ちゃんとは言わないわよね?」
実の母親と妹からこれでもかと現実を見せられました。お母さんも由紀も、言葉をオブラートに包むという思いやりを娘(姉)に持って欲しいと思うのは贅沢でしょうか。




