第二百四十一話 御年始の詣で先
「はふぅ~眼福眼福」
私と朝霞さんを交互に眺め、にやにやした顔を隠そうともしない由紀。盆と正月が一緒に来たような浮かれ具合ですが、来たのは年末と朝霞さんです。
「脳力試験の司会者コンビが目の前にいるなんて、この上ない至福の時間だわ。持つべきものは素晴らしい姉よね」
「朝霞さんが来た目的はお父さんよ」
朝霞さんは私が目当てでうちに来たのではありません。お父さんに挨拶する為の来訪なのです。
「あそこでユウリちゃんに会わなければ来なかったけどね。しかし落ち着くなぁ、この空気」
のんびりとコーヒーを啜る朝霞さん。完全オタクモードの由紀を目の前にして落ち着けるとはこれいかに。
「由紀がもろに憧れの目線で見てますけど?」
「これくらいなら可愛いものだよ。その由紀ちゃん自身も有名人だしね」
朝霞さんの言うとおり、由紀もテニスの若手トッププレイヤーとして有名になっています。まだ中学生なので一般人への知名度はあまりありませんが、少し詳しい人なら誰でも知っています。
「そ、そんな事はないですよ!お、お父さん、今度の初詣はどこに行くか決めたの?」
笑顔を向けられ、照れた由紀は露骨に話題を変えてきました。お父さんは苦笑いしながらもそれに応じてくれます。
「まだなんだよな。周囲の有名所は行ききったし、遠出も出来ないしな」
「鷲宮神社も今年行ったしね」
あのインパクトは忘れられません。初詣に行ってコスプレした集団を見る事になるとは夢にも思いませんでしたから。
「また同じ場所でも良いか」
「達磨寺も行ったし、佐野厄除け大社も行ったし・・・」
朝霞さんというお客様を放って考え出す両親。当の朝霞さんが興味ありげに耳を傾けているので、私からは口を出しません。
「お姉ちゃん、良いところ知らない?るる○並みに名所・旧跡に詳しいじゃない」
別に詳しくはないと思うのですが、由紀からはそう認識されているようです。
由紀の友人の一人は旅行好きで、ふと思い付くと適当な方向に放浪するそうです。適当に着いた先で「今どこどこに居るけど、観光名所と名物教えて!」と電話してくるのです。
初めに聞かれた際にたまたま隣に居てそれを聞いた私が答え、その後も答えてしまったので味を占められてしまいました。
今の時代、そういう情報はネットで簡単に調べられるので調べた方が早いと思うのは私だけでしょうか。
「坂東の札所も秩父の札所も制覇してるしねぇ」
秩父の札所は足腰を鍛えるのに役にたちました。山の中まで行ってみれば、朱印を書くのは麓の出張所と書かれていて由紀が崩れ落ちたというのは良い思い出です。
「いい場所があるわよ。一部の人に有名なお寺さんだけど」
「特定の人に有名ならば、まだ行っていない可能性が高いわね。何処なの、桶川さん」
事も無げに発言者である桶川さんに聞くと、気付いていなかった朝霞さんとお父さん、由紀は驚きの表情を露にしました。
三人共気配察知のスキルレベルが低いようです。後に由紀にそれを指摘すると「私、お姉ちゃんみたいなバグキャラじゃないから」と一蹴されました。私は普通の女子高生ですよ。
次話からの初詣編は丸々書き直しとなる為、更新まで時間がかかります。




