第二百三十六話 夢の終わり
カルタは三回やって三回とも草加さんの圧勝という結果に終わりました。小さい子も居るのだから少しは手加減すれば良いのにと思ってしまいましたが、草加さんには譲れない何かがあったのでしょう。
その後はせがまれて仕事の時の話とかをしました。当たり障りのない業界裏話的な感じの話をしたのですが、みんな面白そうに聞いてくれました。
「そろそろ終わりにするわよ」
職員の女性がパンパンと手を叩いて宣言すると、子供達は不満そうに職員の女性を見つめました。
「え~、まだ良いじゃない」
「ダメよ。もういつもより遅いんだから。夜更かしはいけません!」
時計を見ると、11時を回っていました。小さい子には十分に遅い時間です。話し込んでいるうちに時間が経つのを忘れてしまっていました。
「じゃ、じゃあ、最後にサインをお願いします!色紙持ってきますから!」
「もちろん良いわよ」
サインを書くくらい、断る理由がありません。2つ返事で了承すると、草加さんは飛び出して行った。
「あ、僕も!」
「私も!」
数人の子も同様に飛び出し、持ってきた色紙にサインをすると皆大喜びでした。
「今日はありがとう。楽しかったわ」
「こちらこそ、夢のようでした。ありがとうございました」
全員に見送られて車に乗ります。大きく手を振る子供達。窓を開けて手を振り返しました。
「楽しかったわね」
「ユウリちゃん、これ、時々やらない?」
子供達の反応が期待通りで楽しかったみたいです。子供達との触れ合いは楽しかったし、頻繁にでなければまたやりたいというのが正直な感想です。
「そうね。でも、頻繁にやると皆慣れるわよ」
場所を変えたとしても、頻繁にやれば新鮮さが失われ相手の反応も鈍くなります。私は構いませんが、リアクションが楽しみな桶川さんとしては本意ではないと思います。
「そうね。その加減が難しいわね」
楽しかった悪企みの成果を語り合いつつ家に戻ります。時間は零時を回っていましたが、帰宅したのは私がいちばんのりでした。
その頃孤児院では。
「行っちゃったね」
走り去った車を見つめながら子供が呟きます。楽しかったお祭りは終わり、少しの寂しさが子どもたちに訪れていました。
「夢じゃ、ないわよね」
と言いつつ手の中にあるサイン色紙を見る少女。草加さんへと脇に書かれたサイン色紙が、先程までの出来事が夢ではないことを証明していました。
「ほらほら、風邪をひきますよ。早くお風呂に入って寝なさい」
職員さんに促され、建物に入る子供達。非日常が与えてくれていた興奮が醒め、眠気に襲われあくびをする子供もいます。
「あっ!」
廊下を歩いていると突然少女が叫び、子供達のみならず職員の大人達の注目も集めました。
「姉ちゃん、どうした?」
「私、写メも動画も撮ってなかった。折角のチャンスだったのに・・・」
がっくりと崩れ落ちる少女。呆れた子供達は、そんな彼女を無視してさっさとお風呂場へと向かうのでした。




