第二百三十四話 ケーキ危機一髪
「まあまあ、そのお陰でユウリさんに会えたんだろ。感謝すべきじゃないの、姉ちゃん」
「うっ、確かにそうだけど・・・」
納得しきれていない草加さんをよそに、桶川さんが持参した箱をテーブルに乗せていきます。
「これは私達からの差し入れよ。ユウリちゃんのギャラで買ってきたから、遠慮なく食べてね」
「ちょっ、私のギャラからなの?聞いてないわよ!」
どっと周囲から笑い声があがります。実際は殆どを桶川さんのポケットマネーから出してくれました。私一人ではここまで出来なかったので、桶川さんには感謝しかありません。
まあ、それで犠牲になった専務さんには今度何かで埋め合わせをすることにしましょう。
「冗談はここまでにして、包みを開けてみてね」
職員の女性が包みを開けました。箱の蓋を取ると、中から姿を現したのは大きなチョコレートケーキでした。
「チョコレートが食べれない子はいない、大丈夫かしら?」
「大丈夫です、みんなチョコレートは大好きですよ」
輝く目でチョコレートケーキを見つめる子供達。見たところテーブルの上にケーキは無かったので、孤児院の予算では人数分のケーキまでは都合出来なかったのでしょう。
「これ、頂いてよろしいのですか?」
「もちろんですよ。食べるために買ってきたのですから。さあ、切り分けてもらえますか」
子供達の大歓声があがり、職員さんが包丁を持ってきました。同行していた草加さんがお皿を人数分抱えています。
「あ、切るの私にやらせて!」
皿を置いた草加さんが職員さんから包丁を貰おうとしました。それを見た子供達は顔色を変えます。
「駄目!それだけは駄目!」
必死になって止める子供達。この止め方は、草加さんがドジっ娘属性持ちというだけでは無さそうです。
「姉ちゃん、去年ケーキを切ろうとして顔をケーキに突っ込んだよな?」
「あれは、タイミング悪くくしゃみが出て・・・」
コントでしか見られないようなドジを、草加さんはリアルでやらかしたようです。傍で見ているだけならば面白いで済みますが、被害を受ける当事者には溜まったものではないでしょう。
「今回もするかもしれないだろ。俺達はいいけど、ユウリさんに姉ちゃんが顔を突っ込んだケーキ喰わせる気か?」
「・・・わかったわ」
渋々と包丁を職員さんに渡す草加さん。子供達は安堵の表情を隠そうともしません。
「ちょっと見てみたかったかもしれないわね」
「私も同感」
私達にはチョコレートケーキを犠牲にする価値があるかもしれませんが、子供達が可哀相なのでそのまま職員さんに切り分けてもらう事に。
「では切るわよ」
職員さんが切り分けるケーキを食い入るように見つめる子供達。綺麗に切られたケーキが次々とお皿に並べられていきます。
「いただく前に感謝の言葉を。社長さん、ユウリさん、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます!」」
「どういたしまして。さあ、食べましょう!」
桶川さんの言葉に、一斉にケーキに手を出します。こうして、楽しいクリスマスパーティーは幕を開けたのでした。




