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第二百三十二話 イブの奇跡

「お疲れ様!」


「盛り上がったね!」


 悪なりのクリスマスイベントは無事に終了しました。出演した皆で広い控え室に集まり、簡単な祝杯を皆であげています。


「次のイベントも成功させて、皆で楽しもうな!」


 朝霞さんがしめてお開きになりました。素っ気無い終わりですが、皆さんそれぞれ多忙でこの後も仕事が入っているのでちゃんとした打ち上げをやる時間が取れないのです。


「ユウリちゃん、そろそろ行きましょう」


「わかりました。皆さん、お先に失礼します」


 残っていた人達に挨拶して控え室を出ます。私に割り当てられた控室に戻り、イベントで着ていた衣装から次の衣装に着替えました。


「誰もいないわ。今がチャンスよ」


 廊下を軽く見渡した桶川さんの誘導で駐車場に向かって走ります。幸い、誰にも見られずに駐車してあった車までいどうする事が出来ました。


「でも、その姿見られても支障ないんじゃない?」


「イベントとか舞台の上ならいいけど、プライベートでこの格好はね」


 私には好んでコスプレする趣味はありません。今回は必要だからしているだけで、好んでこの姿を不特定多数の人に晒そうとは思わないのです。


「どんな反応してくれるか、楽しみね」


 朱に交われば赤くなるといいます。私はイタズラ好きな桶川さんに感化されてしまったようです。


 その頃、東京の某所にある小さな孤児院では一人の少女がため息をついていました。皆が楽しみにしているクリスマスイブには似つかわしくない表情です。


「はぁ、悪なりのイベント、行きたかったなぁ」


「姉ちゃん、まだ言ってるのか。諦めが肝心だぞ」


 その孤児院「虎の花」では、元気のない少女を皆が慰めていました。テーブルにはささやかではあるものの、普段は口にできないごちそうが並んでいます。


「ほら、大好きなユウリちゃんの歌でも聞いて元気だして」


 その場にいる唯一の大人である院長さんが紙のジャケットを手に取ります。ラッパ型のスピーカーが付いた蓄音機にSP盤のレコードを乗せスイッチを入れました。


 回りだしたレコードの端に慎重に針を乗せると、お気に入りの声優ユウリちゃんの唯一の持ち歌のイントロが流れ出しました。沈んでいた少女も、お気に入りの曲を皆と歌い少し表情が晴れます。


 曲の一番が終わり、間奏が流れます。



明日は聖なるクリスマス


神も天使も大忙し


下界に降りた天使達


楽しそうな歌声に


小さな奇跡を起こします



「イヴにピッタリね」


「あれ、この曲、間奏にセリフなんて入ってたっけ?」


 院長さんの感想に疑問をもつ少女。何度も繰り返し曲を聞き、歌詞を覚えるまでに至った少女は間奏に台詞が無いことを覚えていました。


「あのセリフ、聞こえた場所が違う。レコードからじゃなかった!」


 少年が気付き、声がした方向、外に面した窓の方を見ます。それに釣られた少年少女が集まり窓を開けると、そこにはいるはずのない存在がいました。


 お姫様のようなドレスを身に纏い、早々居ないであろう美貌で微笑む少女。しかしそんな少女の顔を知っている少年少女達は、その少女が居る目の前の光景がとても信じられないのでした。

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