第二百二十八話 子供達の心配
「煩くてごめんなさいね」
「いえいえ、姉思いのいい子逹じゃないですか」
通された応接室でお茶を啜ります。入り口の方を見ると、縦に並んだ5つの頭がこちらを覗いていのが丸見えです。あれでも隠れて見ているつもりなのでしょう。
「何があったかは知らないけど、小さい子達に心配させちゃダメよ」
「ふ、普段はちゃんとしてます。今日はちょっとショックな事があったからたまたまです!」
先程の子達の対応を見ると、手慣れていてそうは思えません。信じていない事が伝わったのか、草加さんは言い訳を始めました。
「悪なりのクリスマスイベントに落選してしまって。それがショックで気が抜けてたんです。何も無ければちゃんとしてるのですよ」
「まあまあ、ショックだったのはわかりましたから。そろそろおいとましますね」
幼児達の対応から察するにあれが平常運転だと思われますが、ここは大人の対応をしてあおきます。
遅くなっても迷惑になるので、区切がついたタイミングで残ったお茶を飲み干し立ち上がります。
「あっ、本当にありがとうございましキャッ!」
続いて立ち上がろうとした草加さんが足をもつれさせて盛大に転んでしまいました。とっさに駆け寄り支えたので頭を打つのは防ぐ事が出来ましたが、衝撃で倒れたカップからお茶が少し零れました。
「姉ちゃん、後片付けとお姉さんの見送りはしておくからじっとしていて」
覗いていた子達が入ってきてテキパキと後片付けを始めます。この年でこの手際の良さはかなりの経験を積んでいないと身につかないでしょう。誰がその経験を積ませたかは考えるまでもありません。
男の子に先導されて玄関に歩きます。通されていた部屋から離れたので、気になっていることを質問してみます。
「随分と手際が良かったけど、あれはいつものことなのね」
「アハハハ・・・もう慣れました」
遠い目で虚空を見つめ、乾いた笑いとともに答える男の子。若いのに苦労してるわねぇ。
「でも、優しくて面倒見のよいお姉ちゃんなんです。だから残念で」
「ああ、イベントに落ちた事ね。それは運だから仕方ないわね」
倍率、かなり高かったようです。それに加えて複数のアカウントで申し込みをしてくる転売ヤーまでいたらしいので、余計にチケットの入手は困難になっていたと桶川さんに聞きました。
「お姉ちゃん声優のユウリさんの大ファンで。やっとお小遣い貯めてチケット買う資金を貯めたんです。なのに買えなくて・・・」
どうやら草加さんは私のファンのようです。チケットの都合がつくのなら譲ってあげたいのですが、私も手に入らないのでどうしようもありません。
「私も妹も落ちてしまったのよ。こればかりは運次第だし、倍率高いから仕方ないわね」
「そうですか。お姉さん、また遊びに来て貰えませんか?お姉ちゃん同年代の友達がいないんです」
聞くと放課後は孤児院の手伝いで忙しいため、部活などもしないですぐに帰宅。放課後にクラスメートと遊ぶ事もしないため学校に友人がいないそうです。
それを子供たちはよく思っていなかったらしく、そこに私が彼女を送ってきたのでお願いすることに。更に、イベントに申し込んでいたので共通の趣味があると判断したと話してくれました。
「私も家の手伝いがあるから頻繁には来れないけど、喜んで寄らせてもらうわ」
ここまで内情話されて頼まれては、断るなんて出来ません。そのうち友子も巻き込むとしましょう。




