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内緒 第二百二十七話 それが平常運転

 家は駅から少し離れているようで、二十分ほど歩きました。しかし到着した家は、普通の大きさの家ではありませんでした。少し古い塀に囲まれた敷地は少し小さい小学校程もあり、中の建物は家というよりも学校の建物に近い施設だったのです。


「ここが私達の家です。どうぞ」


「いえ、おいとましますよ」


 無事に送り届け、ミッションは完了しました。早々に立ち去ろうとしたのですが、そうはなりませんでした。


「態々送っていただいてそのまま返すなんて出来ません。少しお休みになってください」


「では、少しだけお邪魔します」


 すぐに彼女の帰ったところでやりたい事もやらねばならない事もないので、好意に甘えてお誘いを受けることにしました。と言うか、不安そうに揺れる眼差しを無視して帰るのが躊躇われたのです。


「さあ、どうぞどうぞ!」


 嬉しそうな草加さんに手を引かれ、松原育児院と看板のかかった門をくぐりました。建物も塀と同様古びていましたが、しっかりと整備はされているように見えます。


「お姉ちゃんお帰り!」


「今日は転ばなかった?怪我はない?」


「だめよ。今日はお客様も一緒なんだから。」


 建物に入った途端幼児に囲まれる草加さんは一人一人頭を撫でながらたしなめました。しかし、あの幼児の発言からすると彼女はいつも転んだりぶつかったりしていると予想されます。


「ああ、また姉貴を送ってきてくれたんだ。ありがとうございます」


 まくしたてていた男の子が頭を下げました。見た目年齢以上にしっかりとした対応をしているのは実年齢が高いのか、こんな事が何度もあったので慣れているのか判断に苦しみます。


「またっていう事は、前にも?」


 思わず問うてしまった所、集まった子供逹が無言で首肯しました。その表情からは諦念の感が見て取れます。


「・・・あなた逹も大変ね」


「支え合うのが家族ですから」


 染み染みと言う少年に、周囲の幼児達も染み染みと頷きます。その様子からは普段からの苦労が目に見えるようです。


「ちょっと、私を差し置いて何意気投合してるのよ!誰も私をフォローしてくれないの?」


「だって、電柱に頭ぶつけて、その後同じ電柱にぶつかりに行ってたもの」


 ため息混じりに先程の事を話します。幼児達は深いため息をつきつつも、どこか安堵したような表情を見せました。


「あ、あれはちょっとショックな事があって沈んでいたから!」


「その程度で済みましたか。貴女が送ってくれたお陰で傷は浅くて済んだようです。重ね重ねありがとうございました」


 頭を激しく打った事を浅い傷と安堵する少年。草加さんはいつもはどんな事をやらかしてるのでしょうか。聞いてみたいような気がしますが、聞くのが怖いとも思います。


「そ、そんな話はいいの!応接室に彼女を通すから、お茶をお願いね!」


草加さんに背中を押され移動します。彼女が忘れ去っていた買い物袋は、集まっていた子供が回収していました。


 回収する手順が手慣れている様子を見ると、それもここでは日常のようです。これがこの施設での平常運転なのでしょう。

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