第二百二十六話 予想外の余暇
収録も終わり、次の仕事に移動するために桶川さんを待ちます。予定通りに終わったので少し余裕があるとはいえ、早めに移動しておくに越したことはありません。
少し待ちやってきた桶川さんは意外な言葉を放つのでした。
「ユウリちゃん、次の仕事延期だわ。今日は終わりね」
「延期ですか?」
「ロケ予定地が急に使えなくなったそうよ。来年に持ち越しね」
次のロケはドラマのちょい役だったのですが、その撮影現場がで水道管の破裂。ロケどころでは無くなり復旧を待っての撮影となるそうです。
「明日からもスケジュール詰まってるから、今日は休んで備えなさい」
「そうですね。某労働基準監督署がこの実態を知ったら、迷うことなく改善勧告出すと確信出来るレベルだもの」
某桃色女性の人気2人組も過労で引退したという前例もあるとおり、芸能界は過酷な世界です。休息は大事なので、休める時には休まないと体がもちません。
とはいえ真っ直ぐに帰っても台本読みしかやることがないので、最寄り駅にて降ろしてもらいました。無趣味なので、こういう時に時間を潰すのが大変なのです。
目的もなしにブラブラと町を歩きます。ゴンッという派手な打撃音にそちらを見ると、中学生程の女の子が額を押さえて踞っていました。目の前の電柱に頭からぶつかったようです。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
見上げて答えてくれた少女は大丈夫と言いつつもダメージが大きかったようで、こらえきれなかった涙が流れ落ちていました。
落としていた荷物を一緒に拾い集めます。ジャガイモ集めに少し手間取りましたが、全部集める事が出来ました。
「ありがとうございました」
ペコリと頭を下げて歩き出す少女。私は歩き出した少女の腕を掴んで引き止めました。
「ちょっと待って」
「え、何でしょうか?」
「またぶつかるつもり?」
少女の目の前には、先程ぶつかった電柱がそびえ立っています。私が止めなければ、少女は再び電柱に頭をぶつけていたでしょう。
「あ、あはははは。重ね重ねありがとうございます」
羞恥心で顔を真っ赤にしてお礼を言う少女。この分ではまた電柱と激突しそうで放っておけません。
「危なっかしいわね。家はどこ、送るわ」
ぶつかるのが電柱なら自業自得で済みますが、バイクや車にぶつかった場合洒落になりません。
「いえ、そこまでしていただく訳には・・」
「またぶつかるわよ?事故を起こしたらどうするの!」
単独事故ならまだしも、他人を巻き込む可能性もあるのです。強い口調で言うと、折れた少女は恐縮そうに受け入れました。
「そうですね。お手数ですが、お願いします」
「どうせ暇だから構わないわよ。気にしないでね」
このままブラブラしていてもやることもありません。別れた後がどうなったかモヤモヤしながら過ごすよりは、送っていった方が精神的に楽です。
「私、草加綾子っていいます」
「私は北本遊よ、よろしくね」
とりあえず自己紹介をした私達はてくてくと歩き出しました。




