第二百二十四話 人事を尽くす
朝霞さんの代マネも到着し、私と桶川さんにこれでもかと頭を下げて謝ってきました。行き先が同じだったのでそこまで恐縮される事は無いのですが、事務所も違うので形式というのもあるのでしょう。
「桶川さん、そろそろ帰りましょう」
「そうね。私も勉強したいし」
一応収まったその場を後にし帰路につきます。車に乗り、疑問に思った事を聞いてみます。
「勉強って、何をするんですか?」
「え、ああ。ちょっと船舶2級をとりたくて」
桶川さん、クルーザーでも買うのでしょうか。会社社長なのでそれくらい持っていても不思議ではありません。
しかし、桶川さんが船舶の操縦なんて心配の種しかありません。暴走してトリスタン・ダ・クーニャ島辺りまで行ったりしそうです。
などとしょうもない事を考えている間に家へと到着しました。スピード違反で捕まらないのが不思議な早さです。
リビングに入ると、由紀が数珠を手に何やら呪文を唱えていました。まさか、怪しげな宗教にでも入信したのでしょうか。
「由紀、何をやってるの?」
「あ、お姉ちゃんお帰りなさい。ちょっと明日の当選祈願をね」
年末の宝くじの発表はまだ先の筈です。一体何の当選なのでしょうか。
「お姉ちゃん、もしかして忘れてる?明日は悪なりのイベント抽選日よ!」
そうでした。今日リハーサルを行ったクリスマスイベントは、入場券の発売は抽選方式になったのです。
定数に対して予約が多すぎた為と、転売ヤー対策にとられた措置らしいです。先着順にすると、自動ソフトを使用した転売ヤーが買い占めて高値で転売するそうです。
「そればかりは神頼みするしかないわ。当たると良いわね」
関係者席も満足に確保出来なかったらしいので、私に出来る事は何もありません。なので、そう言い残して去ろうとしたらガシッと肩を掴まれました。
「お姉ちゃんの携帯からも申し込んでおいてね。締め切りは0時だから早めにね」
「・・・はい」
逆らえない雰囲気に返事してしまいましたが、自分のイベントに申し込むのは少し抵抗があります。
とはいえ遊イコールユウリだと知っているのは、桶川プロの中では桶川さんだけです。抽選申し込み者のリストなど目を通さないでしょうから、実質的な問題はありません。
自室に戻ると、忘れないようにすぐに申し込みページを携帯で探します。検索サイト「ルールル」で探すと一発で分かりました。
申し込みページをクリックしたのですが、処理が重いのか中々繋がりません。携帯をベッドに置いて先に着替えます。
着替え終わり携帯を確認しましたが、まだ繋がりません。台本を読みながら時々チェックするも、繋がったのは30分も経ってからでした。
そこから記入ページ、確認ページと進む毎に時間がかかり、申し込み終了したのは日付が変わる20分前です。すぐにやらなかったら危なかったかもしれません。
無事にミッションを終了し、安堵して入浴します。
明日の仕事に備えてすぐに寝てしまいました。
翌朝、由紀に無事に申し込み出来たことを伝えるとかなり感謝されました。後は発表を待つだけです。当たってくれると良いのですが。




